冬は、まだ厳しい。朝も、水がすごく冷たい。

 けれど季節は確実に。確実に甘さを増してゆく・・・。

 人は浮き立つ。・・・『セント・ヴァレンタイン・デイ』。





    屋 上 
 ヨ コ レ イ ト







 どっさり、と。そんな言葉が最も合うだろう。紙袋から顔を覗かせる、無造作に入れられたチョコの山。
まあ中には普通の・・・チョコ以外のプレゼントもあるのだろうけれど。
 その、誰もが羨むような紙袋を抱えて、虎鉄は教室にいた。
彼は、特有の普段の性格もあいまってか、こういう日は何故かよくモテるのだ。
だからこそ、わかりやすい場所にいなくては、散々探されてしまう。
そんなウザったい思いをするのはゴメンだと思えば、教室待機を余儀なくされる。

 「N〜・・・今年も結構、集まったNaー・・・」
もうすぐ、5限目が始まる。チョコもプレゼントも、大体の子が渡しに来てくれた。
見知った同級生や、常連と化した先輩。中には、顔も知らない子の本命まであったりする。
 「HA〜・・・めんどくせぇNa〜・・・」
殆どの子には、「お返しはチュッパチャプスの3本返しだZe」なんて言っておいた。
基本的に割り切った関係の子が多く、みんな、それで笑って了承してくれるのだ。
が、机や下駄箱に置き逃げされた本命には、そうもいかない。きっちり断らねば・・・と、気は重くなる一方だった。

 『キーン コーン カーン コーン ・・・』
「Oh・・・」
その気持ちを代弁するが如く5限目、退屈な授業の始まりの合図。予鈴が、生徒達をかきたてる。
 『ガタン』
それほど大きな音も立てずに、虎鉄は立つ。周りが、彼のその行動を気に留めることは無い。・・・右手に、紙袋。
 ゆっくりとした足取りで、彼は教室を後にした・・・。




 彼は、天国への階段を上っていた。
・・・と言っても、実際にその階段が、天国に続いてるコトなんて、ありはせず。
屋上に続くそれを、彼と一部の人間が、そう呼んでいるだけだ。
何故なら・・・。
 「
Hi,what is it doing in boy! this place?
You are doing what.
流暢でネイティブ的な、そのやりとり。片方は、さも楽しげに。もう片方は、鬱陶しいとでも言うように。
 「HAHAH〜N★そんな言い方するなYo、Baby!」
そう笑って、虎鉄は重い屋上の扉を閉めた。
広く広く高い、開放された場所。少し冷たい風が、頬を掠め、吹き抜けていった。
 「Oh、寒いNaー、ここは!・・・で、何やってんDa?」
ぶるっと1つ身震いをして、虎鉄は不機嫌な声の主に訊いた。彼は、太陽の光溢れる日向で、読書の真っ最中のようだ。
「・・・寒いなら帰ったらいいじゃないですか。それに、見て判んないんですか」
普段よりも、1オクターブほど低いような声で、冷淡に言葉を紡ぐ。読んでる本は・・・漫画だろうか。
 虎鉄は、首をすくめて小さく笑った。
「HA、判るZeー?でも別に、訊くくらい良いだろーGa」
「ふん」
邪魔をされたのを嫌ってか、彼はチラリ一瞥しただけだった。
が、虎鉄が右横に座ると、微かにため息を吐き、左側により・・・そして、本を閉じた。
 「HA〜N?いいのKa?」
「アンタのせいで読めやしないんです」
「そりゃー悪いNa」
言葉こそ謝っているものの、表情は笑っていた。彼をからかい遊ぶのが、虎鉄にとっては、よほど楽しいらしい。
 「けっ」
小さく悪態づいて、彼はゴロンと寝転がった。そして、
「で、アンタは何で」
虎鉄に、ゆっくりと疑問を投げかける。彼―――猿野にしては、普段とは程遠い、静かな空気。
 虎鉄は少しだけ笑うと、持っていた紙袋を指し示した。
「コレ、食おうと思ってNa。授業も退屈なだけだしSa〜」
「あっそ。・・・何、それ?」
猿野は、最初こそ興味は無さそうだったが、紙袋から虎鉄に似合わない可愛らしいラッピングが覗いているせいか、
それを凝視して訊いてきた。いかにも、不思議そうな顔。
 「HA〜N?コレはチョコだZeー?」
ガサガサと袋から1つ取り出し、虎鉄は包装紙を解いてゆく。
それを見つめ、猿野はさらに続けた。
「チョコ?」
まだ不思議で堪らないといった表情で、寝転んだまま見上げてくる瞳。虎鉄は、それに苦笑しながら頷いた。
「ああ、そうSa!知らないのKa?今日はヴァレンタインだZe?」
 「・・・ヴァレンタインなんて、企業に乗せられた愚か者たちの祭典だろ?興味は無いデス」
軽く、ため息を吐いて。猿野は瞳を閉じた。聞いて呆れた、つまらなかった、とでも言いたげな仕草。
 「N〜、そんな酷いもんでもねぇYo。それよか、猿野も食うKa?」
猿野の言葉を、半ば流しながら、虎鉄は言った。
尤も、言ってはいるものの、視線も意識も開けているチョコの包みに注がれていたが。
 猿野は、面倒くさそうに言葉を返す。そろそろ、睡魔に誘われているのだろう。
「あぁ〜・・・?いいよ、結構です」
それには、穏やかな笑い声が返された。猿野はそれを、さして気にする風でもなく、毒づいた続きを喋る。
「それにどうせ、3月に『お返し』っての要求する気なんでしょ、先輩は」
「HA?俺はそんなに心の狭い人間じゃねぇYo。チョコの1個や2個、くれてやるZeー?」
「・・・・・・」
「HA!食いたいんだRo、猿野?」
「・・・・・・!」
コレは、一種の駆け引きだ。望むものを、どう手に入れるか。
無償で折れるのはシャク。そんな両者は譲らずに、このまま時が過ぎるかとも思われた・・・が、しかし。
 「良いZe、やるYo」
「・・・?」
意外にも呆気なく、虎鉄の方が折れた。
普段なら、彼も意地を張り、相手が何らかの条件を提示するのを待つタイプなのに。
 不審ではあったが、猿野は「じゃあ貰う」と手を伸ばす。もちろん、そこにチョコを貰う気でいたのだ。
・・・しかし。降ってきたのは・・・黒い影。
 「?!」
「甘んじて受け取れYo」
「っ!!」
 影は、虎鉄自身が創り出したものだった。
されど、そんな事を確認する暇もなく、猿野は妙な感覚に、襲われる。

 「っ!!!」

 口いっぱいに、甘い味覚が広がる。溶けるような、とろけるようなそれは、チョコと呼ぶに相応しい。
それと同時に、何か。舌を抉られるような、絡められるような、妙な、妙な何か・・・異物感とでも、言うべきか。
 「んっ、・・・ん・・・!」
あまりにも近く、ぼやけている虎鉄の顔。口内を探られるような感触。間違いない、間違いっ・・・ない!
「・・・っちょ、オイ!」
 まどろみは、一気に覚醒を促された。あいていた両手で、被さる肩を押しのける。
「確かに、チョコは渡したZe」
ああ、何処までも人を哂う・・・にやけた笑みが、そこにあった。
 「『渡したZe』じゃねぇよ。アンタ、今何をした」
強気の瞳と、高揚して赤みが差した頬。
「何って。ほんの、『御礼』を貰っただけSa。・・・強いて、言葉が欲しいのKa?」
対するは、崩れることなきポーカーフェイスか。彼の零す笑みは、今はただの仮面でしかない。


 ―――本気は、双方見せたりできないクセに。

 「ま、俺の方は、そういうコトだからNa。今のは俺からのヴァレンタインってことで」
ゆっくりと、虎鉄は立ち上がった。沈黙を破り、静かなる空気を掻き混ぜる。
 「・・・返事は、3月にでも貰おうKa?」
はは、と小さく笑いをもらして、足を屋上の扉へと向ける。
・・・もうすぐ、5限目終了の合図が鳴り響くだろう。虎鉄は、独り猿野を残して、ドアノブに手をかけた。・・・と。


 「・・・死んでも、堕ちてなんかやらねぇよ」


 背中に微かに聞こえた、強い強い声に片手を上げて。精一杯の彼の声に、片手を上げて。


 「・・・残念。もう俺が堕ちてるんだYo」


 ―――ゆるり虎鉄は、口の端を上げていた。



 屋上に、風が吹き抜けた。未だ、冷たく頬を掠めるそれ。
何も動かすことはなく、ただ、そこに吹きすさぶ。

 広い広い屋上は、心をも広く、解放したようで。




 ―――解キ放タレヨ、素直ナ心。


 本日、『セント・ヴァレンタイン・デイ』。










END...

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親愛なる水風さんから誕生日祝いに頂いた、虎猿文です!!
見ました皆さん!!?このカッコイイ文を!!
あーもう幸せすぎて言葉が出ませんよ・・・(汗)
兎に角眼鏡な知的猿最高!!(漢字ばっかり。)
相思相愛どんと来――い!!!(笑)

しかもしかも、下さるだけでもありがた過ぎるのにリクまでとって頂いて!!
リクは「甘くないバレンタイン」でした。なんて捻くれたリクざんしょ!!(笑)
スイマセン水風さん!こんな女で!!(イタ)・・・(
でも出来あがるのは恐ろしく早かったですね・・・/笑)
本当に水風さん大好き!!愛してます!結婚してー!!(ヤメイ。しかもしつこい。/笑)
えっと、お約束の虎猿も・・・頑、張り・・・ま す  ね!!(言っちゃった!)
では!水風さん有り難う御座いました!!!

注:英文(
この色)にポインタを合わせると訳が出ます。(あの超素敵サイト様のマネじゃないですよ!!
これ以外に訳を出す方法が思い浮かばなかったのです・・・/スイマセン!!)

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