十代目が、死ぬ夢を見た。

 俺の手から消えてゆく息吹が儚くて、気付いた俺は、自分の部屋、無機質な天井を眺めてた。



 ―――嗚呼、そうなんだ。

 あのひとが、俺の全て。






      
恋 友 差      ―――――― レ ン ユ ウ ソ ウ サ






 「あ、獄寺くん」
「十代目っ!」
今日はついてる。朝から、何も小細工せずに十代目に会えた。
リボーンさんが横に居るけど、まぁ其れはいつもの事。学校に近くなると、じゃあな、なんて言って消えてしまう。
だから、二人きり。ほんの少しの間だけだけど、二人きりで居られるんだ。
 「あっ・・・の・・・十代目!」
「な、何?」
ピクリとして、十代目が此方を向いて下さる。其れが嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。
「あのですね!今日の昼なんですけど・・・」
「よ、ツナ!」
「や、やや、山本っ・・・!」
・・・・・・最悪だ。
 山本。運動神経良し、人望有り、十代目に対して恐らく敵意無し。悪でないだろう存在。
ただ、俺には・・・・・・非常に悪い、かも。
別に、攻撃的で直接的な接触をしているわけでもないのだけれど。
ただ、何となく。
 「・・・あの、それじゃあ・・・」
「いやいや俺は・・・」
「え〜!・・・・・・」
「・・・・・・失礼します」
踏み込めば崩壊。そして我慢するのは、俺だけで良い。



 「あーーー、天気良いなーーー」
授業は、はっきり言ってたるい。
こんなの、顰蹙を買うから言わないけれど、テスト前にちょっと頑張りゃ何とかなる。
それよりも、ダイナマイトの手入れやら、他事をやってた方が随分と有意義だ。
「んー・・・リボーンさんもいらっしゃらないしなー」
普段なら御口授頂いたりするのだけれど、今日はいらっしゃらないので其の予定も無し。
屋上に来たものの、意外に自分は、暇を持て余す気がする。
 そして慣れた手付き、手入れもチェックも終了、案の定・・・暇になる。
元々今日は持ってた量が少なかったし、運動場で体育が行われていなかったってのも大きい。
そんなわけで俺は・・・睡眠を、とる事にする。今朝は夢見が悪くてよく眠れなかったし、ちょうど良い。
「ん・・・」
暖かい日が射し込む場所を探して横になる。
こういう時、便利にも即行眠れて即行起きられる、というのはマフィアの習性だろうか。
ぼんやり思っているうちに、直ぐに、俺は夢の世界へ落ちた。



 「十・・・代、目・・・?」
「獄寺くん」
何も見えない。声だけ聞こえる。って事は、これは、夢か。
「獄寺くん」
「はい、あのっ・・・何処に・・・?」
「ずっと、遠くに・・・」
「は?じゅ、十代目っ・・・?!」
「バイバイ」
「じゅっ・・・、!!」
そして、紅く視界が染まる――――――最悪、今朝も、見た夢。
十代目が、死ぬ、其の夢。

 ・・・生きて、ますよね?



 「十代目っ!!」
「?!」
廊下を走り抜けた。屋上から駆け下りて、そういえば授業中だっけ、誰に咎められる事も無く全力疾走。
そして教室の扉を思い切りよく開けて、叫ぶ。
視線、注目、俺のもの。そんな事より、十代目。
「十代目!十代目っ・・・、御無事、ですよねっ?!」
「ご、獄寺くん・・・」
「オイ、獄寺!御前、今 授業中だって判ってんのか!」
「あぁ?!じゅ、十代目っ・・・!」
 教師の怒声もどうでも良い。とにかく、十代目が無事なら・・・と十代目の姿を探す。
教室の後ろの方、立ったままの姿で驚いて此方を見つめてらした。
「あ!十だ」
「獄寺くん、あの」
「はい?」
多分、満面の笑み。だって、二度も見てしまったあの夢は、余りにも怖くて。
だから あのひとの無事な顔が、笑顔が、唐突にとても、欲しくなって。

 「少し・・・弁えてくれる?此処は日本で・・・しかも中学だから」

 ただ、其れだけなのに。

 それから俺は、多分教室中の視線を浴びながら、後ずさりして、ゆっくりと出ていった。
何処を通ったかも何をしたかも覚えてない。
「此処は日本 此処は日本 此処は日本 此処は日本・・・・・・」
呪文のように何度も唱えながら、俺は、逃げるように校舎裏へ滑り込んだ。
 誰にも見られない。寒いから眠れもしない。夢も、もう見ない。
「此処は日本 此処は日本 此処は日本・・・・・・」
だから十代目に危険は少ない。だからいつも十代目に張り付く必要は無い。リボーンさんも居る。

 そう、だから。平気なんだ、平気なんだ、平気――――――なんだ、俺が、居なくても。

 十代目っ・・・。



 それから暫く経って。いや、実際はだいぶかもしれない。俄かに、上が騒がしくなった。
聞こえる声は・・・何故か、危機感の在るもの。しかし遠すぎて、はっきりは判らない。
「・・・と!」
「し・・・よ・・・!」
「・・・・・・何だ?」
叫んでいるのかもしれない、大声。女子の悲鳴・・・も、聞こえる?

 ――――――もしも。もしも、此処は日本で中学でも、もしも。

取り敢えず、校舎の表に回る。とにかく、上に行くには校舎内へ入らなければならない。
土間の扉を開けて、校舎内へ上がりこむ、其の直前に聞こえた声。

 「山本っ!ツナっ!」

 どうでも良い、いけ好かない男の名前と、命より大事な、大事なひとの名前。

 「じゅっ・・・!!」
「つむじを撃ったら、つむじスプリング弾だ」
「ッ!!」
急いで見上げた空、映ったのは、恐らく死ぬ気弾効果が続いている十代目と、驚ききった割に放心はしていないだろう山本。
それから校舎の中程からか、聞こえたのは、リボーンさんの落ち着き払った声。
 「ひ、あっ・・・じゅ、十代目っ・・・!」
駆け寄ろうとして、そして、気付く。
俺じゃ、無い、其処に居るのは、俺じゃ
「ごめっ・・・大丈夫か、ツナ?!」
「んっ・・・山本こそ、平気?・・・俺の、下手な言葉のせいで・・・」
「全然!俺、丈夫なのも取り柄だし、さ!」
無い、駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ違うんだきっとそう――――――届かない。






 「あ、獄寺くん!」
「! じゅ、十代目・・・!」
帰り際、十代目も帰ろうとしてらっしゃる事を知っていたけど、何となく出てゆくことも躊躇われて、俺はぼんやりと立っていた。
そうしたら、十代目が先に気付いて下さって、俺に声をかけて下さった。
俺は、やっぱり嬉しくて。
「先程は済みませんでした、俺・・・!」
「あーーー、うん、もう良いよ。今度からは少し、考えてね」
「はい!それであの、さっき十」
「ツーーーナ!」
え?
「あ、山本!」
―――あ、れ?
 そうして、山本に呼ばれ、十代目は「じゃあ」と言うと去っていかれた。
残された俺は、「あ、はい!それでは・・・!」。独り、小さくなる其の背中を見送る。

 ・・・・・・・・・・・・・ああ、平気、なんだ。







 忠誠心だと誓う此の心、俺から離すには大きくなり過ぎた。
持て余す熱も感情も知らないふりして、今日も変わらぬ笑みにすり替えよう。

 「十代目っ!」

 ただずっと、『右腕』として。俺の命は貴方の御傍に――――――。






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伍万打感謝企画文。茜梨花音さん、リクありがとうございました!
リクは「切ない片想い」だった筈・・・ で す が 。
あぁうん、片想いってのは間違い無さそうだ!其れだけだ!(汗)
そして無理やり且つ捏造気味に、山本事件(て言うのかあれ)を絡めてみました・・・。
あーーー色々済みません・・・。茜梨さん、此の様な拙作で宜しければ、どうぞ御納め下さいませー。
ところで題の四字熟語も捏造しました・・・。


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イナバさんのとこでやっていた五万打感謝企画にこそこそと獄ツナで参加したらば・・・

スンゴイのキタ――――(゜∀゜)――――――!!!!!!

「切ない片想い」というリクしたんです大好きなんですなんて切ない獄→→ツナなんだろう!脈なし!(笑)
切なすぎですこんなキューッとする文があって良いのかしら!?
軽やかに山本事件にかけてあるところがまた凄いです!
胸に響く心理描写と獄の自分の気持ちを抑えつけて抑えつけて・・・というのがたまりません。
獄は美味しいところ全部山本に持って行かれてそうですよね!(悲惨)
四字熟語まで作ってしまわれるイナバさんにもう脱帽どころか毛が全部抜けますよ!(嫌)

あと、ホンマ相変わらずの光速筆でしたねイナバさん・・・!(驚愕)

ではイナバさん五万打おめでとうございました!
素っ敵な企画文本当に本当にありがとうございました!!!



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