普段はキツイ目で世界を見据えてて、だからこそ俺は言えなくて。

 だけど俺に向けてくれるものは柔らかくて優しくて、だからこそ俺は言えなくて。

 そうなんだ彼が優しくて、彼が優しくて、だからこそ俺は、ずっとずっと、言えなかったんだ。






      [ 笑って それから 名前を呼んで ]






 「十代目!!」
「あぁ、獄寺くん」
授業が終わって、掃除当番だった俺は教室に残っていた。
一緒に掃除していたクラスメイトも、サボって帰ったり、終わって帰ったり、何故だか独りになって残っていた。
別にずっとこんな感じで、独りで居る事は少なくなくて慣れていて、でも。
「終わりましたかっ?!」
今は
「うん。そうだね」
もう、考えられないくらいになってしまった。
 「もう・・・言って下されば、自分が代わりましたのに、掃除当番くらい!」
「それは駄目だよ。一応、みんながやってる仕事だからね」
少し脹れたように言った獄寺くんに、俺は苦笑する。だけど知ってる、「ありがたいけどね」と付け足せば、
「え?えへへ。ありがとうございます」
ほらまた、笑ってくれるんだ。
そうして彼は機嫌を直したようで、俺の鞄を先に軽く持ち上げて。
「まぁ良いです!じゃあ帰りましょ、十代目!」
俺は彼が差し出してくれた其れを受け取る―――のが、いつもなのだけれど。

 「其れ・・・止めて・・・くれない?」

 「え?」

 瞬間、驚いたような彼の瞳を見た。
「十代目?えっ・・・、あ、れ・・・俺、何かしちゃいました?!」
「や、それは全然!凄く大丈夫なんだ、けど・・・」
「じゃあ・・・何で・・・何が・・・え、『止めて』って・・・」
「あ〜〜〜・・・うん、その・・・いや、何でもない!やっぱ良いや忘れて忘れて!」
「ちょっ・・・十代目?」
「さ、俺 帰ろ〜っと!」
「十代目?!」
思わず口をついて出てしまった言葉、取り返しがつかなくて、俺は慌てきって教室を出てゆく。
半ばひったくるように彼から鞄を受け取って、心なしか早足で廊下を歩く。
やばい、顔、赤い気がする。
 後ろから、足音。
「じゅっ・・・十代目!十代目!」
「うぅ・・・」
呼ばれる声に、自己嫌悪。回数増やしてどうすんだ、俺。
なるべく其の声を聞かないように、そそくさと階段を下る、角を曲がる、土間に出て――――――つか、まる。

 「十代目!!」

 「うわっ!」

 くんっ!と、後ろから鞄を引っ張られて、背を仰け反りながら、其の場に拘束される形になる。
履き替えられずに落とした靴、片方。
持て余したココロ、気付かれるんじゃないか、心音。
「す、済みません!」
「や、大・・・丈、夫」
気付かれないように息を軽く吐きながら、仕方なく振り返る。
顔は赤いはず、妙なトコで目敏い獄寺くんが、気付かないわけが無い。
 「済みません、俺・・・何か・・・!」
はぁはぁと肩で息をして、真剣な眼で俺を見つめる。俺はただ首を横に振る。
「そんな・・・十代目がこんな・・・」
「・・・もう、良いからさ」
ただただ心配そうな色を見せてくれる彼に、へへ、と歪んだ笑顔を向ける。
だって、気付かれたくなんかないじゃないか。こんな、女々しい自分に。
 「そんな・・・」
形の良い眉が、きゅっと寄せられる。いつも強い光を宿した目が、曇ったようになる。
居たたまれなくなる気がして、でも、言うには勇気が無くて。
本当は。

 ――――――“名前を呼んで”。

 たった一言、言えれば良いのに。
でも彼は“十代目”と俺を嬉しそうに呼んでくれるから。俺の為だけに笑ってくれるのが嬉しくて。
だけど彼は“十代目”と俺を嬉しそうに呼んでくれるから。そうじゃなかったら呼ばれないだろうかなんて不安で。
だから嗚呼、未だ、手放せない“十代目”の音の温もり。


 「・・・・・・俺には、何も言えませんか?」

 「え?」
余りにも切なさを秘めたような、声がした気がした。
彼には似つかわしくない、自信の無いような声がした気がした。
「獄寺くん・・・?」
 立っている其の場所に、斜めに陽が差し込んでくる。辺りはオレンジに染まりつつあって。
自分の声が、思うより大きく響いて、彼の背が、いつもより低く見えた。
だけど其の眼が、

 「俺では、駄目ですか?」

 酷く強く、揺れ見返していた。まるで切れそうな、声の糸。
普段はキツイ目で世界を見据えてて、だからこそ俺は言えなくて。
だけど俺に向けてくれるものは柔らかくて優しくて、だからこそ俺は言えなくて。
そうなんだ彼が優しくて、彼が優しくて、だからこそ俺は、ずっとずっと、言えなかったんだ。

 「・・・笑って、いつもみたいに、獄寺くん」

 振り向きかけていた身体を、完全に彼に向けて。
だけど目なんて合わせられないから、泳がせたあと、下を向く。
困惑しきった、巧く発音出来ていないような彼の声が降って、無言のプレッシャー、先を促される。
無意識、小さく震える手。死ぬ気弾なんて撃ってない。なけなしの勇気、全て注いで。


 「・・・それから・・・名前、を、呼んで・・・・・・」


 “沢田綱吉”を、好きだと言って――――――。


 「済みません、失礼しますっ!」
「へっ、わ!!」
ぎゅうぅ、と。視界が一気に暗くなって、よく見ると真っ白のシャツに隅の方、シルバーがちらついて。
それから背中に、いっそ痛いくらいの力を込めた、妙にくすぐったくて温かい手が在った。
「じゅっ・・・あ・・・さ、沢田さんっ・・・!!や・・・ツ、ツっ・・・ツナさんっ・・・!!」
「!!」
絞り出すような微かな声で、耳元、息がかかるくらいに近い距離で、緊張しきった音。
獄寺くんの、声が、脳に直接響いた気がした。






 「済みません、俺っ・・・本当・・・気付かなくて・・・!」
「あー・・・良いよ、別に。半分くらいは俺の我侭だし」
未だ赤みが完全に取りきれていない頬を押さえながら、学校からの帰り道、並んで歩いていた。
あのあと、結局「でも俺はやっぱり御呼び出来ません!」なんて言う獄寺くんに、開き直って一通りの不平を言った。
苦笑するような笑みを浮かべて、「だって無理ですよー」って彼は返してくる。
だけど俺は、今はもう、
「あ、十代目。今日は何処か寄っていかれます?」
「んー・・・」
今はもう、大丈夫な気がするから。






 遠く伸びる影、こっそりと君の声、優しい全てを見つめてた。

 君がそうして笑ってくれるから、もう俺は言葉の続き、確信出来るんだ。

 ――――――笑って。それから、名前を呼ぶ君。











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こ、こんな感じで・・・。(汗)




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イナバさんからいっただいちゃいました〜vvv
私がリボにはまったらすぐにリボ下さるイナバさんはもうなんでもアリだと思います(笑)

ってかみなさん見ましたこの・・・この・・・この獄ツナーーーーー!!!!!!!(どったんばったん)
なんて素敵なんだモエなんだもう大好き!!獄ツナ大好き!!イナバさん大好きーーーー!!(落ち着け)
噛みまくる獄に多大な愛を感じますモエますげふげふ(むせた)
ツナは『10代目』に縛られてると良いと思う。獄はそれに気付けると良いと思う。モエだと思うモエ。

初獄ツナとは思えません獄とツナを把握しきってますこの初々しさ・・・!!
一生イナバさんに付いて行こうと思います(土下座)



イナバさんラブ!!大好き!!!ほんとーーーにありがとうございましたーー!!!!


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