†† ギョクセンカ5 ††
「はぁ・・・はぁ・・・」
五、六秒で着くはずの距離がいやに長く感じる。
もう見失ってたまるかと、獄寺は必死に走った。
ガラガラ・・・
ドアを閉める音がして、
「10代目・・・。」
ついに獄寺は愛しい人をその目に捕らえた。
しばらく放課後練習のボール音の響く体育館裏で泣いた後、
鞄を教室に置き忘れてしまったことを思いだしたツナは、
――獄寺くんもう帰ってるよね。
そう思い教室に舞い戻った。
教室に入る時に一度呼ばれたような気がするが、まさかと考えてから見渡しても誰もいない。
ほっと一息ついて自分の席を見るが鞄がなかった。
――あれ?・・・俺どこかに置いたっけ・・・?
そう思い、教室のドアを閉めた時、再度呼ばれた気がして、ふと何気なくそちらを見たツナの表情が凍る。
「――っ!」
ツナはそのまま一目散に逃げ出した。
「ッ!まっ、まって、待ってください!」
獄寺は慌てて追いかけ、ものの数秒でツナの手を捕る。
「離せっ!!」
珍しく強い語調で言うツナに居たたまれなくなって、 獄寺は捕った腕を引き、簡単に傾いた体を抱き締めた。 |
「ッはな――」
その行動にかっとなったツナが暴れだした時、
「逃げないで、下さい・・・。」
獄寺の震える声がツナの耳元に響いた。
『・・・・・・。』
しばらく沈黙が流れて、抱き締められたまま所在のないツナが先に口を開いた。
「お昼一人で食べろって言ったくせに。」
「・・・すいません。」
「普通に話したと思ったら急に消えたくせに。」
「・・・すいません。」
「しばらく・・・・・・しばらく、距離を置こうって言ったくせに!」
「・・・すいません・・・・・・。」
「距離置くんじゃなかったのかよ!離せよっ!」
「嫌です。」
訳が分からない。何がしたいんだこの男は。
ツナがもっと気の利く言葉はないかと必死で探していると、獄寺が口を開いた。
「俺・・・10代目がボスになるために自分が邪魔になるなら、離れよう。そう思いました。
実際離れてみるととても辛くて、だから、お傍にいるんじゃなくて、影ながら守っていこうって思ったんです。
この・・・気持ちが、これ以上大きくならない内に、離れてしまえばいいと思ったんです。」
ぽつぽつと話す獄寺の言葉を、ツナは抵抗をやめてじっと聞く。
「浅はかでした。今本当に大切にすべきは未来ではなく今の貴方だということに気付けなかった・・・。」
そこまで話し、獄寺はツナの両肩を持って体を引き離すと、困惑した瞳を見つめて言った。
「やっと分かりました。10代目が立派なボスになるのはとてもいいことだけど、それだけじゃなくて、
俺や、これからできる部下が、10代目を支えて、一緒にみんなで立派になっていけば、
そしたら10代目も、ファミリーも立派になる・・・そういうことなんですよね。」
「・・・う・・・うん・・・。」
妙に悟ったように言う獄寺に、ツナは納得半分、不理解半分で生返事を返す。
怒りはとうにどこかに消えてしまった。
獄寺はそんなツナの様子を見て頷くと、主人の前に優雅に片膝を付いた。
そして、なんのためらいもなく下唇の肉を噛み切る。
痛そうだと顔をしかめるツナににこりと笑って、笑った口も、流れる血もそのままに、
左手でツナの右手を取り、手の甲ではなく手首の、血の最も流れる場所へ口付けた。
「一生――お傍に。」
手首に当たる生暖かい感触だとか、笑んだ口からちらりと見える鮮血だとかに、ツナは何か反応しなければと焦り、
取られたままの左腕をそっと離させると、
そこについたままだった血をぺろりと舐めた。
「よ・・・よろしくお願いします・・・。」
予想だにしなかったツナの反応にしばし呆然とし、それから、
「血の誓い、成立ですね。」
獄寺はそう言って笑った。
この先、どんなことがあっても、二人で――
二人で、いれば大丈夫。
一緒に、乗り越えていこうね。
――――――――――
後書き。
長くなりましたがギョクセンカはここでお終いです。
大好きだと言ってくださった方も多くて、楽しく書けた作品だと思います。
この時ときメモGSをしていたので、影響を受けて
なんだか告白シーンみたいになってしまいましたが、その辺はご勘弁。(汗)
獄寺はツナにぞっこんですが、ツナに恋愛感情は皆無です。
手首にちゅーされても「野性的だな」と思うのみで赤くなったりはしないんです。
ここは譲れないっ!!
ギョクセンカというのは「花菖蒲」のことです。まぁ有名な花ですよね。
『忍耐。』という花言葉、これ一点のためだけにこの花を使わせてもらいました。
血の誓いは私のオリジナルです。
手へのキスは誓いのしるし。でも獄寺くんはきっとそんな生ぬるいもん求めてないと思うんです。
なので血で、手首で。こんな感じになりました。
誰かのパクリになってたらすいません。これでもない頭使って必死に考えたんで許してください。(汗)
切ない系かと思いきや、最後はハッピーエンドということで、まぁめでたしめでたしですね。
途中、リボーンの仕業だろ!ってバレバレだったと思うんですが、
その辺は軽く目を瞑っていただいて、内容より心理描写ということでご勘弁。(そんなんばっか)
これはこれで良い子に育ってくれたと思います。
タツナミソウより後から始めたのに先に終わってしまったので、こいつが初の連載になりましたね。
文章がまだまだ幼かったとは思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
2004年7月23日。クーラーのきいた部屋で、みなさんのことを考えながら・・・
茜梨花音でした。
※注※
挿絵はAAの相生葵さんがうちの絵板を通して下さった応援イラストです!
煮るなり焼くなり消すなり好きにして下さいと言うことで意気揚揚と貼らせていただきました♪
葵さんですよあ!の!葵さん!!うわー私ちょっとホントどうしよう幸せもんですYo!!
こう・・・なんか青春全☆開(笑)な感じが最高ですよね・・・vv
私の小説絶対こんなんじゃないと思います絶対こんな綺麗じゃない・・・!(オドオド)
しかも3枚もいただいてしまって・・・もうなんと言って良いか・・・
とにかく、こんな素敵な応援イラスト本当にありがとうございました!!
太字にカーソル合わせると意味出ます。
* * * * *
おまけ。
――帰り道
「そういえば獄寺くん、俺の鞄見なかった?」
「いえ、見てないです――って、あっ!俺の鞄も教室だ!」
「え?教室見渡したけど獄寺くんの席にも何も置いてなかったよ?」
「・・・でも俺持って帰ってないですよ。」
『・・・・・・。』
しばらく沈黙が流れて、
「――いでっ!?」
「だっ大丈夫ですか10代目っ!!」
突然二人の鞄が空から降ってきた。
ツナは直撃し、獄寺は見事にキャッチする。
「いてて・・・うん。大丈夫・・・というかなんで空から鞄が・・・――あぁ!!」
鞄の飛んできた方向を見上げると、木の上に悠々とリボーンが座っていた。
「ちゃおっス。」
「リボーン!」「リボーンさん!」
「よかったなお前達。より深い絆で結ばれて。」
当たり前のように言うリボーンに、ツナが首を傾げる。
「・・・?なんでリボーンが知って――」
獄寺の方を見ると、途端に獄寺は目をそらす。
その様子にピンときたツナは湧き上がる怒りに両手を震わした。
「――・・・げ・・・・・・元凶はお前かーーーー!!!
獄寺くん!ダイナマイトッ!!早く出して!!」
右手を差し出してダイナマイトを要請するツナを獄寺は慌てて宥める。
「おっ落ち着いてください10代目!リボーンさんは10代目を思って――」
「うっさい!この野郎下りて来い!!ちょっとでもやり返さなきゃ気がすまん!!」
ころんと寝転がり真下で騒ぐ二人を視線の端で見て、
リボーンはファミリーのこれからを思い、浅く微笑んだ。
おまけ
おすまい。
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