‡‡ ひたひた ‡‡
――と、いうのは擬音語なのか擬態語なのか。
とにかくこの少年は、最近その『ひたひた』に頭を悩ませていた。
「・・・ぅー・・・さむ・・・・・・」
外で夕食を済ませて、家路を急ぐ12月半ば。
己を掻き抱きながら、横をすり抜けた風に身を震わせる少年が一人、住宅街を歩いている。
ぽつぽつと灯る電灯が、できる限りのスピードで歩く少年を、周期的に照らし出していた。
――家まであと電柱10本…
少年が今よりもっと幼い頃・・・さもそれが極上の遊びのように、楽しげに電柱を数えながら学校から帰った頃を不意に思い出す。
何故かその一本だけ広告などに何重にも巻かれたよく目立つ電柱が、丁度家から十本になるのだった。
懐かしいな。と横目で視界から消えるまでの間のみ見る。
さすがにこの寒さでは立ち止まって見ようとまでは思わなかった。
顔に当たる風がビリビリと頬を固めてゆく。
少年は今日くらい雪降るかな。と空を仰いだ。
家まであと電柱九本。
ひた・・・
「・・・きた・・・。」
小声でそう少年は呟いて、今日も気付いてしまった自分に小さく溜め息をつく。
これでかれこれ五回目だ。
・・・いや、正確に言えば‘五日目’か。
そう、つまりこの『ひたひた』は、四日前から連日続いていたのだった。
――やっぱ幽霊かなぁ・・・嫌だなぁ俺霊感とかないと思ってたのに・・・
振り返って人がいないかは既に二日目に確認している。
『ひたひた』が普通に帰宅途中の人の気配ならば、後ろを見れば視界に人影が入るはず。
だがそこには風に煽られた木の葉が舞うだけで、人の姿は見られなかった。
暗闇。
『ひたひた』。
人影はなし。
・・・とくればやはり連想されるのはそっち系――
早く言えば幽霊や妖怪だった。
びゅうっ!!
「・・・ぅ・・・わっ!」
嫌な想像をした瞬間に、突如強風が少年を襲った。
――お、おばけが応えた・・・!?
思わずそう考え付いてしまい、さー・・・っと血の気が引いていく。
――は、早く家にっ・・・
家まではあと電柱五本。
しかし、少年はそこでふと気付く。
ひたひたひた・・・
――近付いてる!!?
だっ!
考え付くと同時に、死ぬ気とも言える早さで体は走り出す。
もしそのまま近付かれていったら、きっと多分凄く恐ろしいことになるのが予期されたからだ。
ひたひたひたひたひたひたひたひたひた
――うわ追っかけて来る!!・・・・・・こっ、怖ーーーーーッ!!!
・・・って・・・
「・・・・・・・・・ぇ?」
思わず振り返って見てしまった光景に、少年は顔のほとんどの血が下へ下りていくのを感じた。
・・・ニタァ
――ななななんか見えてるしーーーーーっ!!!しかも笑ってる笑ってる笑ってる!!!にたぁって笑ってる怖いぃッ!!
人くらいの大きさの黒い固まりが、少年と同じかそれ以上のスピードで後ろから付いて来ている。
全身真っ黒なのに何故か口だけが、三日月のように白くくっきりと浮かび上がっていた。
――い、家に・・・!・・・・・・でも・・・もし鍵開けてるとこで‘アレ’に追いつかれたら・・・・・・・・・?
あと家まで電柱一本という所に来て、ふと浮かんでしまった悪い考えに、
有ろう事か少年は足を止めるタイミングを見失ってしまった。
――あぁ!家が・・・!!バカッ!!俺のバカーーーーーーッッ!!!!!
通り過ぎてしまった安息の地を半泣きで見やって、そのまま視界に入り込んできた真黒にまた身を凍らせる。
――・・・ひっ、人!!人のいるとこ!!!人込み!!!明るいところーーーー!!!!!!
誰でも良いからとにかく人のいる所を目指す。
周りの家々にはそれは暖かな光が灯り、テレビの音や談笑が漏れ出ている。
しかしそんな家に少年が数秒と待たずに駆け込める訳がない。
だからとにかく少年はネオンの灯りでぼんやりと鈍く光る空の下だけを目指して走った。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
息がどんどん上がっていくのが分かる。
スピードも落ちてきた。
この少年にずっと走り続けられるような体力は備わっていなかった。
そして、闇雲に灯りを目指した逃走劇もついに終わりを迎える。
――い・・・き・・・どま、り・・・・・・!?
住宅街で直線的に何処かを目指して、そうならない訳がなかった。
「はっ、はぁっ、はっ」
煩い自分の息遣いの音など気にしてはいられない。
きょろきょろと周りを見回すが退路は見つからない。
真黒はすぐそこまで来ていた。
――いっ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!怖いッッ!!!誰か・・・・・・!!!!
「ご、獄寺くん!!!!!!!!!」
ぎゅっと目を瞑って、藁にも縋る思いでその名を叫んだ。
なぜかは分からないけど、まず一番に彼の顔が頭を過った。
「はいっ!!」
嬉々とした声。
嫌になるほど聞き慣れた、
欲しくて堪らなかった人の声が、
目の前から響いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごく・・・でら、くん・・・・・・・・・?」
「はいっ!なんですか10代目!10代目はどこに行こうとしてたんですか!?はっ・・・もしやトレーニングですか!?
さすが10代目は俺らとは一味違いますね!人前ではボスにならないと言いながら陰では鍛練を怠っていないなんて・・・!
能あるスズメは羽を隠すですね!尊敬します!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー・・・・・・うん。そっか。凄くよく分かった。そっかそっか。うん。」
「??どうかしましたか?」
「ううんもう全然なんでもない。全くちょっとも全然。・・・素敵な‘フード付き’ジャンパーだね獄寺くん。“真っ黒”で。」
「えっ、そっそんな・・・ありがとうございます!」
「それに“真っ黒”の手袋も。“真っ黒”のズボンも。“真っ黒”のマフラーも。とってもいいなぁ。」
「て、照れます10代目・・・。褒めても俺が喜ぶだけですよ。・・・10代目は黒がお好きなんですか?」
「うんもうとっても。死ぬほど大好き。・・・でも今、黒見たら見境なく焼くかも。」
「・・・・・・・・・・・・え・・・・・・」
「・・・ごめん冗談。気にしないで。」
「え、あ、はい!」
「・・・時に獄寺くん。いつから俺の後ろに?」
「10代目が外食なさっていた時からです!」
「・・・・・・あーうん。声掛けてくれてよかったのに。」
「そんな・・・帰り道で別れてからもずっと付いていってたのがバレたらストーカーみたいじゃないですか!」
「・・・・・・うんそうだね。ストーカー‘みたい’だね。」
「夜道の一人歩きは危険なんですよ10代目!だから俺が陰からお守りしてたんです!
でも10代目が『ぅー・・・さむ』って言った後くらいに俺が・・・・・・じゃなくて、俺の服をお貸しして
温めて差し上げないと風邪をひいてしまうと思いまして、
慌てて駆け寄ろうとしたら10代目が走り出してしまわれたので、
きっと俺に気付いてどこかに連れて行ってくれようとしてくれているんだと思って急いで追いかけたんです。」
「・・・・・・・・・・・・そう。ありがとう。俺今、獄寺くんの優しさをひしひしと感じてるよ。」
「えぇ!そんな、優しさだなんてとんでもない!・・・こ、光栄です・・・!」
「・・・・・・そう・・・よかったね。」
少年は幽霊や妖怪なんて屁みたいなものだと思った。
――――――――――
後書き。
冬に怪談が書きたかっただけです。(土下座)
私霊感ないんで全然雰囲気出せませんでした。
でもこれ打ってる時(夜中3時)にいきなりテレビ消えたりしてかなりビビりました。(どきどき)
もう怪談なんてこりごりだ・・・(なら書くなよ)
2004年12月18日。
その後テレビがざーーーっとかびーーーーっとか荒れたので本気でビクついた
茜梨花音でした。(ドキバク)
↓↓怪談チックにするためにいらんおまけ!↓↓
「・・・なんで獄寺くん五日間も毎日付いて来たの?」
「・・・・・・へ?俺が後ろからお守りしたのは今日だけですよ?10代目が別れた後家とは違う方向に曲がったから気になって・・・。(※注毎日一緒に帰ってる訳じゃないんです)」
「・・・・・・・・・・・・・・・じゃ、じゃああの四日間の『ひたひた』は・・・・・・?」
ひた・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あなたは夜道を歩いてる時大丈夫ですか?
後方から、聞こえてはきませんか?
・・・『ひたひた』が。
おまけおすまい。(何このヘボい怪談!@爆笑)
――――――――――――――――――――
ワォ!!!
このアホ小説に、ともめぐかなたさんが可愛すぎる挿絵を描いて下さいました!!
もう見ました!?見ましたよね!?
今にも動き出しそうな獄寺とツナ!
以前掲示板に描いていただいたものが消えてしまったので、
ネバ(ともかな→ともかなっとう→ネバネバ→ネバ)に
あの絵持ってないすか・・・と聞くと、持ってないけどまた描くよー的反応が返ってきたので、
ぜひに!と言ったらすぐにこんな可愛い絵が返って来ました・・・
ネバ、すげぇ!!( ̄□ ̄;)作業早っ!!!(笑)
表情とか構図とか背景とか、色々たまりません。(ぜーぜー)
ネバほんと愛してる!感謝感謝・・・vvvvvvv
またなんかください(〃´ヮ`〃)(笑/図々しいな!)
では、本当にありがとうございました!!!!!!
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