「嘘つき。最低だな。お前。」



やめろ・・・



「・・・いーやつだと思ってたのになぁ。ずっとそうやって騙してたんだな。俺らの事。」



やめろ・・・



「今までの俺達ってなんだったんですか・・・?見損ないました10代目・・・」



やめろ・・・





「お前にもう用はねー。」



「わりーな俺、腹割って話せるやつしか信じねぇから。」



「さようなら10代目・・・・・・いや、沢田綱吉、さん。」





やめろやめろやめろ・・・






・・・どがっ・・・どごっ!


『調子乗ってんじゃねぇよ『何様なんだよ!『死んじまえ『てめぇみたいなゴミ』


痛い痛い痛い痛い!


『ハハハ!こいつ腹蹴ると変な声出るぜ!』
『・・・ホントだおもしれー!なぁ顔だとどーなの?』
『バッカ見えるとこはまずいだろ』
『あぁそっかじゃあ後ろ頭で・・・』
『ギャハハそれあんま変わんねぇって!』
『アハハハハ『クスクスクス』
『あ、ねぇ!今のカエルみたいな鳴き声!』
『それカエルに失礼だろ!』
『確かにー』
『ハハハハハ!『アハハハハハ!『キャハハハハハ!!』



















やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ・・・ッッ!!!!!









‡‡ sciagurato genio ‡‡









がばっ!



「ハッ ハァッ ハァッ ハァッ・・・!」



明け方。

一瞬の覚醒。


ぴんと張り詰めた空気にぐっしょり濡れた寝間着と体が一気に冷やされる。

ぶるりと震えがきたのはそのためか、頭を霞めた先ほどの映像のせいか。



――クソッ・・・・・・クソッ・・・クソックソクソクソクソッッ!!!!!



頭を掻き毟りたい衝動を必死に抑える。


もう離れたんだ。

奴等はここにはいない!

なのに・・・なんで・・・なんでなんで!

何度こんな夢を見ればいいんだ。
俺はいつまで怯えていれば・・・?


未だ震える身体を掻き抱く。

そのまま寝間着越しに二の腕を掴んだ。


布なんか突き抜けて皮膚に食い込めば良い。爪なんか折れれば良い。

痛みでココロがいっぱいになればいいと思った。




近くで眠るリボーンに気を遣いながら静かに布団の中に戻る。

濡れた寝間着が無性に不快で仕方ない。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・寒ぃ・・・・・・」








三人のあの冷たい目を思い出した。








涙は、出なかった。












*****












「・・・・・・ふぁ〜ぁ・・・おはようリボーン。」

「おはよう。昨日はよく眠れたか?」

思考の読めない顔でそう言ったリボーンに、いつも通りに返す。

「ちょっとイヤな夢見たかも。忘れちゃったけど。」
「そうか。随分魘されてて鬱陶しかったぞ。」
「えっ嘘ごめん。」

こんなことでは動揺はしない。してたらこんな人生やっていけるはずがないのだ。

「寝言も言ってたしな。」
「えぇ〜!恥ずかしいなぁ・・・なんて言ってた?」

「『痛い』とか『やめろ』とか小さい悲鳴みたいなものとか・・・」

・・・ぎくりとなんかしてやるものか。

「・・・なんか本気でヤな夢だったんだなぁ・・・覚えてなくてよかった。」
「あぁ・・・そうだな。」

決して感情の読めないその双眸。

「・・・お前用意しなくていいのか?・・・・・・それともまた死ぬか?」
「わ!用意します!」


拳銃を向け合いながら談笑するような奇妙な感覚。



・・・・・・気分が悪い。









*****









ガチャ・・・

ビシッ

「おはよーございます!」

「あ、おはよー」

ドアを開ければいつものように彼が居る。

来てくれなくていいのに・・・“他人”に会いに来てる人を相手するのって凄く疲れる。
・・・いや、本当はきっと“アイツ”に嫉妬してるんだろう事は分かってるんだけど。

なんで“ダメツナ”にはこんなにも好きになってくれる人がいるんだろう・・・


・・・・・・・・・なんで俺じゃダメだったんだろう・・・



『ハハハハハ!『アハハハハハ!『キャハハハハハ!!』



くゎんくゎんと画像が頭を巡りだす。


ぐっ・・・

――ヤバ、吐きそ・・・

普段はこれ位で吐き気が起こったりはしないのだが、何分今日は夢見が悪かった。

映像がリアル過ぎる・・・

「今日はちょっと嫌な天気ですね!でも大丈夫です俺折り畳み傘持ってきましたから!」

にかっ

――うわー・・・あわよくば相合傘狙ってるな、これは。
・・・って、あ・・・・・・・・・。

内心苦笑する。

――敵わないなぁ・・・吐き気なくなったよ・・・。本当に、変な人。



‘俺’は獄寺くんに少しだけ癒されて、

獄寺くんは“アイツ”に恋焦がれて、

“アイツ”は京子ちゃんに思いを寄せてて・・・


なんて複雑な関係。


“アイツ”が獄寺くんを見てあげることができたらいいのに。
そうすれば二人とも幸せなのに。

そんなこと、不可能だけど。

‘俺’は‘俺’で“彼”は“彼”だから。
彼がきっとあの娘を好きになるだろうことは絶対だから。
‘俺’がそれをどうこうできるものではない。


それに・・・・・・――


まず大前提に、“彼”は存在しない架空の人だ。

所詮は鉄仮面。

抱き締めても残るのは冷たさだけ。



なんて不憫な獄寺くん。

なんて愚かな‘俺’。


「わー獄寺くんでも折り畳みとか持ってるんだねぇ。ちょっと意外かも。」
「当然っスよ!突然刺客が現れたら傘じゃ邪魔ですから!」
「え、普通にその場に捨てりゃいいじゃん!ってか刺客とか来ないから!」
・・・というかダイナマイトが濡れたら困るから雨の日に傘は投げちゃダメだよ。

「な、なるほど・・・いやしかしその一瞬の隙を突いて敵が攻撃してくるかもしれませんし・・・」
「あー・・・確かにそれはそうかも。」
・・・その場合は敵に投げつければいいと思うなぁ。



楽しそうに話す“二人”。


それを見るしかできない‘俺’。



・・・・・・
《「『なんて惨めなんだろう!!』」》ってか。


・・・だから嫌なんだ。獄寺くんと居るの。





・・・こんなのが一体いつから続いているんだったっけ・・・?













*    *    *    *    *













「イタリアに留学していた転入生の獄寺隼人君だ。」

――わっ。

先生が紹介したのは灰色の髪の一人の男子。
開いたシャツ。無数のアクセサリ。不機嫌そうな面。

・・・・・・不良系か・・・。


――ああいうのに目を付けられると困るんだよなぁ・・・
ダメツナじゃろくな抵抗できないし。

ま、関わらなきゃどーってことないけ・・・ど――


ギロッ


――げ。・・・目合わせちゃった・・・やーな予感・・・。

ズンズン
「獄寺君の席はあそこの・・・獄寺君?」
ズンズン

ガッ!
「でっ!」

『――ッてぇ・・・何すンだよ!』

・・・と言いたい。けど、我慢。
こんな風に思いっきり机を蹴られたって“アイツ”は臆病な弱虫ダメツナ。
こんなこと思いはすれども言える訳がない。

「では、朝学活はこれで終わります。・・・委員長。」
「きりーつ!礼!」
『ありがとうございましたー』



教室から、特に何をするでもなく廊下に出る。

「・・・・・・ちぇ、なんだよあの転入生は。あーゆーノリ、ついていけないよな〜」

・・・ああ、なんでこうなるんだろう。
なんで俺はあんなのに目をつけられるんだ?
デキても駄目。デキなくても駄目。
普通じゃ駄目だから、もっとデキないヤツに疎まれるから、と思ったのに・・・
嫌だなぁ・・・。
・・・どうすればいいんだろう。



ドンッ


「おーいて 骨折しちまったかも。」
・・・今日はやけについてない日だな・・・

ヒヒヒと気持ちの悪い笑いを浮かべながら現れたのは三年の不良達。
よりにもよってこんな奴等と当たってしまうなんて俺もつくづく運のない。

一応言っておくが、これくらいの奴等なら俺だって伸すくらいできる。
急所さえ狙えばこんなのどうってことないのだ。
・・・が、こいつ等にも不良仲間がそれは沢山いるだろうし、当然ダメツナがこいつ等に勝てるとは思えない。
つまり・・・
「ごめんなさい!ごめんなさい!本っ当すみません!!」
――逃げるが勝ちってこと!

さっと廊下から抜け出して校舎の壁に隠れる。

「あっぶねーーっ ヘタしたら半殺しになるとこだった・・・」
集団でボコられるのはもう沢さ――


「目に余るやわさだぜ」


――さっきの三年!?こんな人気のないとこじゃまず・・・!
って、この煙草に火を点けてる灰髪は・・・

「!き・・・君は転入生の・・・!」
獄寺隼人・・・ああ、あいつ等じゃなくてもどっちにしろ不良か・・・
まぁでも一対一なら逃げれないこともないかな。
三人は囲まれたら大変だ。

「そ、それじゃこれで・・・」

「おまえみたいなカスを10代目にしちまったらボンゴレファミリーも終わりだな。」
!?

「え!?なんでファミリーのことを?」

・・・・・・イタリア・・・ボンゴレファミリー・・・10代目・・・?


――・・・・・・ッまずい!こいつ不良どころかリボーンと同じマフィア系だ!
しかも随分こっちの事情を知った!

ちらちらと彼に見せられた写真が頭を過る。
候補を殺しに・・・!?来るの早過ぎじゃないか!?

「オレはおまえを認めねぇ。10代目にふさわしいのはこのオレだ!!」

『どうぞ貰って下さい10代目の座なんて要らないから!俺は平凡に生きていたいんだ!』

「な!?なんだよ急に?そ・・・そんなこと言われたって・・・」

・・・“アイツ”はまだ状況に付いて来れてない。
ああしかし困った。まさか不良よりもタチの悪いのに目付けられてたなんて・・・
ダメツナはおろおろするしかできないし・・・

「目障りだ。ここで果てろ。」
「んなぁ!?バ!爆弾!?」
――はぁ?え、ダイナマイト・・・!?嘘だろここ日本だよ!?
・・・ここは逃げるか・・・?ダイナマイトの威力ってどれくらいだろう!?
本性見せてまた昔みたいに【アレ】に戻るくらいなら耐えた方がまし・・・!?


――・・・・・・・・・ぁ・・・


「あばよ」
・・・駄目だ今は逃げられない・・・彼に、見られてる。

・・・また全権を彼に委ねなきゃならないのか・・・
「うわ!ひっ うぎゃああ!」

ズキュウゥゥ!

弾丸一発。

それだけで彼――リボーンは導火線二本をいとも簡単に切ってみせた。
「ちっ」
「ちゃおっス」
「リボーン!」
窓の下の出っ張りにちょこんと座った殺し屋は、拳銃から煙を棚引かせていつものように食えない笑みを浮かべていた。

「思ったより早かったな獄寺隼人。」
「ええ!?知り合いなの?」
ああ、リボーンが来たせいで余計にやり辛くなった・・・。
この赤ん坊はこんなに小さいくせに、時々全部バレてるんじゃないかと思わせるようなことを言ってくる。


「ああ。オレがイタリアから呼んだファミリーの一員だ。」
『ッ10代目の座狙ってるようなファミリー、こっちに呼ぶなよ!』
俺は“ダメツナ”なんだぞ!?

「じゃあ こいつマフィアなのか!?」
「オレも会うのは初めてだけどな。」
「あんたが9代目が最も信頼する殺し屋・・・リボーンか。」
――9代目が最もって・・・なんか侮れない奴だなぁとは思ってたけど、そこまで凄い奴だったのか・・・。

「沢田を殺ればオレが10代目内定だというのは本当だろうな?」
「はぁ!?何言って・・・」
10代目内定は喜んでどうぞなって下さいだけど・・・何も殺らなくても・・・!
「ああ本当だぞ。んじゃ殺し再開な。」
『俺、全然譲る気なんですけど!』

・・・こ、これがマフィアの世界・・・?
っていうか俺マフィアになんてなりたくないし!
もうこれ以上目立たせないで・・・頼むから・・・

チャッ
「戦えって言ってんだ。」
リボーンが本気なことくらい分かってる。
ダメツナが普通に戦って敵うわけもないってことも。

向けられた銃の向こうには余裕の笑み。

つまりそれはリボーンの死ぬ気弾使用を意味してて・・・
「じょっ、冗談じゃないよ!マフィアと戦うなんて!!」
逃げなきゃ。
もう死ぬ気になんてなりたくない。
あんな・・・無理矢理に俺の隠してるものを出すなんて理不尽だ・・・!
どうして放っておいてくれないんだ・・・ただただ隠してるだけなのに。


どうかそこから引きずり出さないで。


「行き止まり!!」



「終わりだ」








「死ぬ気で戦え」









もう・・・やめてくれ・・・!!!!!!




































――・・・ハッ!バカだなぁ・・・向かってくる奴は全員ぶちのめしてやればイイのに

ダメだよ・・・俺非力だもん。またいっぱい蹴られちゃう。

今の俺ならなんでもできるゼ?死ぬ気ってのは便利なモンさ

それでも集団には敵わないよ・・・。目立ちたくない。痛いのも寂しいのももう嫌。

なら仲間を作りゃァいい

仲間・・・?

そう例えば目の前の・・・・・・

マフィア!?

こんなヤツが仲間だと、色々便利だと思わねェ?

だ、ダメだよ・・・俺を殺そうとしてるもの・・・

なァに!こういうヤツは自分の方が強いと提示するか・・・

あ!足元に爆弾が!!

命を救ってやりゃァいいのサ!!































「《消す!!!》」

「《消す!消す!消す!消す!消す!消す!消す!》」




シュウゥゥウゥ・・・



――あ・・・・・・・・・

・・・・・・・・・ああ!もう!

考えてることは分かるのに、それを止めることも、勝手に動く体を止めることもできない。
止めてたのは俺・・・唆してるのも・・・・・・俺、だった・・・

死ぬ気弾受けると嫌なんだ・・・あんな汚い本性が、剥き出しになる・・・

・・・気持ち悪い。反吐が出そう。


普段押し殺してる反動?

こんなに止められないなんて・・・

もう死ぬ気になんてなりたくない!!!



ガバッ

「御見逸れしました!!!あなたこそボスにふさわしい!!!」


後ろを振り返れば土下座のマフィア。

死ぬ気な俺の・・・俺の本性の思うように事が運んでるみたいだ。

「10代目!!あなたについていきます!!なんなりと申しつけてください!!」

「負けた奴が勝った奴の下につくのがファミリーの掟だ。」
『《こういうヤツは自分の方が強いと提示するか・・・》』

「オレは最初から10代目ボスになろうなんて大それたこと考えていません。
ただ10代目がオレと同い年の日本人だと知って、どーしても実力を試してみたかったんです・・・・・・」

「でもあなたはオレの想像を超えていた!オレのために身を挺してくれたあなたにオレの命預けます!」

『《命を救ってやりゃァいいのサ!!》』



俺は汚い。


端から見返りを予測しての行動だったのに。

それを今言い出せない。
言い出せる訳がないと分かっていながら、自分を卑下するようなことを考えては自己防衛ばかりして、

「ふ・・・普通にクラスメイトでいいんじゃないかな?」

へらへらと薄っぺらい言葉しか言えないでいる。



それはきっと、

「獄寺が部下になったのはおまえの力だぞ。よくやったな、ツナ。」

やっと手に入った味方を失いたくないから。


今俺が黙ってダメツナでさえいれば全ては丸く収まるんだ。

ただ大人しくしてればいい。どうせバラす気はないんだし。


それで同学年の味方が手に入る。




俺は汚い。




・・・でも、これは、仕方のない事なんだ。



みんなのために。

“俺ら”の幸せのために。


「ちょっ、まってよ獄寺くん!ダイナマイトはだめだって!!」



これからよろしくね、獄寺くん。














ずーーーっとそうやって騙されていてね。
























俺もボロを出さないから。





























Ma, dice allineare?




















感想、苦情、なんでも受け付けています。
一言でも良いのですのでなにか反応をください(土下座)


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