真っ暗な真っ暗な闇の中で

ただただ、祈ってた――

いつかその時が来るのを。















恋愛してない歴15年。
告白された数は星の数、とまでは行かないけれども覚え切れないほど。

そして今も――

「司馬君・・・あの・・・えっと・・・その・・・」
「・・・?」

放課後体育館裏に呼び出されてはや10分。
もうそろそろ着替え始めないと部活に遅れてしまう。

「私・・・えっと・・・・・・っ・・・」
この雰囲気。
もう何度目になるかも分からないけど、アァ告白されるなぁと理解せざるを得ない空気。
「・・・・・・??」
自分でも鬱陶しい性格に設定してしまったと思う。
話すのも面倒なので喋れないシャイなキャラを被ってみたが・・・

演じてみるとこれほどやりにくいキャラはないと痛感した。
話さない、照れ屋、それでもって優しくて親切。

なんだこのギャップ・・・。と自分で突っ込んでしまったほど。

「わ、私っ・・・司馬君が・・・・・・す、好きなのっ!」
「っっ!!?」

はいここで赤面。

「・・・め、迷惑かなぁ?」
「・・・!」

ここで首を左右に振って。

「じゃ、じゃあ・・・わ、わ・・・私と、つっ付き合ってくれ・・・ない?」
「・・・・・・」

んでもってイヤホンを外す、と。

「ご、ごめん・・・・・・」

はい、終わり。
お疲れ様。名前はおろか学年すらも知らないカワイソウな女の子。

「あ、ううん!!聞いてくれただけでいいの!!えっと・・・ひ、引きとめちゃってごめんね!!じゃあ、ば、バイバイ!!」
瞳に浮かんだ涙を見せない様に走り去っていく。

そんな彼女に少し大きな声で、
「あ・・・ありがとう!」

と言う。
それが聞こえたのか彼女は一瞬ビックリしたかのように振り返って、手を振ってる此方を見た途端、
嬉しそうに、少し悲しそうに手を振ってから去っていった。


・・・ふぅ。


取り敢えずは俺の株も下がらずに、面倒くさい事も終わったな。

大体、ずっと音楽聴いてて、サングラスを外さない男なんか、何処に魅力なんてあるのかな?
俺が女だったらそんな男、いくら優しくてもご免だけど。

あー・・・あと5分くらいならここにいてもダイジョーブかな?

誰もいない事を確認して、ポケットから5本ある煙草のうち一本を取り出す。
箱のまま持ち歩いていたらもし見付かった時に(そんなヘマしないけど)なにかと困る。
5・6本もってるのなら例え見付かっても無理矢理貰ったみたいに言えばいい。
そう言えば信じてもらえるようなキャラにはしてきたはずだ。

市販の安物ライターで火をつけて、サングラスを外して、スゥと吸い込み、溜め息に乗せて紫煙を吐き出す。
立ち上る煙は風によって一瞬で流されていく。

あー、落ちつく。

たまにはストレス発散しとかないとね。
病気とか怪我のもとだし。

目を閉じて何度か煙草をふかす。
―――と。






「―――・・・・・・し・・・ば・・・?」






――げっ。

がばぁ!
サングラスを掛け、煙草を揉み消し、声のした方を振り仰ぐ。


「・・・さ、るの・・・」


そこにいたのは同じ野球部の猿野天国。

声を掛けたはいいが、相手の視線はたった今揉み消したばかりの煙草にだけ注がれてて。


『・・・・・・』


気まずい沈黙が辺りに満ちる。
それを押し流すかのように少し強めの風が二人の間を吹き抜けた。



「――――・・・・・・み、見た?」



「・・・おぉ・・・。た、ばこ・・・吸ってた、な。」


おわぁ、バッチリ見られてるし。

うーん困ったなぁ。
どうやってこの場を収拾しようか・・・?




* * * * *

二通り描いてみましたがどちらも波に乗れず。

* * * * *






↓正規Ver.↓







「――お、落ちてたから試しに吸ってみたい気分になって・・・」
「うそ。」


――え、なんで?


「だってなんか手慣れてたし。むせたりしてないし・・・。」

顔で俺が何を言いたいか分かったようで、言葉を続ける猿野。
それにしても・・・と更に続ける。


「それにしても・・・実は良く喋るんだな・・・。司馬って。」



――あ。



言い訳の事考えてて忘れてた。
司馬葵はこんなに話さないってこと。


・・・・・・墓穴を掘ったというか、なし崩しというか・・・



いいや。もう言っちゃえ言っちゃえ。
猿野さえシメとけば、噂とかにならないし。
サングラスを外して言う。


「あぁ、そーだよ。実はお喋りなんですシバ君は。煙草も吸っちゃう不良君。
優しいシャイな司馬君は、不良のシバ君の仮の姿でしたとさ。
・・・ショックが大きいかな?純粋な猿野君には。」


「・・・・・・」


軽口を言うが猿野の反応はなし。

「――・・・声も出ない?」

暫くしてそう言うと、漸く猿野が口を開く。











「・・・・・・なんか・・・寂しそう、だな。お前。」











     風が鬱陶しい。

「――寂しそう?俺が?なんで?本人はそんなつもりもないし、寂しい要因もないけど。」

「でも、寂しそうだよ。

お前・・・・・・――

もしかして本音で語り合える友達とか、本気で喧嘩できる友達とか、そんなんいないだろ?」

     吹き荒れる風に苛々が募る。


「・・・いるさ、それくらい。一緒に悪い事やるヤツも、殴り合うヤツもいる・・・」

「本気でそれが友達・・・親友だと思ってんのか?」


     まるで息もできなくなるような風。


「フン、思ってたらどうなワケ?」







     ――ヤバイ







「それなら・・・・・・哀しいな。」


     頼むから止まって・・・

「俺には沢松がいる。子津がいる。野球部の皆がいる。
皆がどう思ってるか知らないけど、俺は皆が好きだ。
皆は本気で俺に向き合ってくれる。だから俺は頑張れる。
嫌なトコも良いトコも、全部言い合うんだ。
そしたら俺も皆もどんどん強くなれる。でも・・・

・・・今の司馬は・・・・・・弱いよ。
弱くて・・・・・・脆い。」

「・・・・・・ッ」

俺は何も言えない。
猿野だけが話し続ける。


     耳元で唸る風。いっそ吹き飛ばされれば楽だろうか。


「ちょっと触れたら壊れそうなんだよ。今までの司馬も今の司馬も。」


     耳から口から体中の穴という穴からわけも無く侵入してくる風。


「――お前に・・・猿野に何が分かるんだッ!!」


     恐いコワいコワイ


     お願い。入って来ないで


「分からねぇよ・・・。何も言ってくれなきゃ分かるわけないだろ?
それに・・・知ってっか?何が分かるって言葉、まるであらゆる物を拒絶してるみたいだけど本当は・・・」

目に映るのは猿野の何処か哀しそうな顔のみ。










「――分かって欲しいっていう叫びと一緒なんだぜ?」










     嗚呼、偽りの皮が破けだす。

「違うッ!俺は・・・俺はッッ!」


「――違うなら、なんでお前・・・




――――泣いてんだよ。」


泣く?

誰が?

俺が?

司馬葵だろそれは?


でも滲んだ世界は紛れも無い事実で。

頬を何かが伝う感触だけが妙にハッキリ伝わってきて。


心の中の俺が、小さな頃のまま時間を止めてしまった俺が、
出して出してと騒ぎだす。

猿野の言葉が心の鎖を砂の様に消し去っていく。

それは吹き荒れる風に一瞬で吹き飛ばされて。


「・・・・・・ッ」


嗚咽も漏らせない俺。


「・・・・・・





* * * * *

書いてる途中で『なんか違う』と思ってそのまま。
試しに↓を書いてみる。


* * * * *












↓スレ猿Ver.↓







そう思案を巡らせている時に、思わぬ言葉がかけられた。





「なんか意外だな・・・。司馬も吸ってるなんて。」










* * * * *

結局乗ってこなくてこのまま放置。




太字に触ると訳とか意味出ます。











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