『じゃあ、明日そっち行くから!』

プッツー ツー ツー・・・


――・・・まずい事になった・・・



†† 
confrontation! ††



事の始めは、珍しい奴からの電話。
(――とは言っても、元々電話自体していないのだが。)

何故掛けてきたと問う俺に奴はなんで?と聞き返す。
暫く考えた後、電話を掛けてくるのは珍しい事だと思っただけだと言うと、
奴は俺と同じように暫く沈黙した後に、暇だったから・・・かな?と言ってくる。

そういう事もあるものかと一応納得して、
奴の話に耳を傾ける。

聞いていると良くそう、次から次へと話が思い浮かぶものだと思う。
俺は常時聞き役に徹して、奴の会話の合間に相槌を打つのみだった。



『そんでそん時先輩が――』

『んで、犬飼のヤローが――』


・・・共通点が少ないのかどうかは知らないが、
奴の話には必ずと言って良い程十二支の奴等が絡んでいる。

――そういうのは聞いててあまり気分の良いものではない。

『そしたら牛尾キャプテンが・・・』
「――十二支の話はもう良いだろう・・・」

言ってからしまったと思う。
奴としては意識して言ってる訳では無いのだ。
それに勝手に苛ついてしまっては理不尽というもの。

頭では分かっているつもりだったが・・・
牛尾の名前が出たのでつい遮ってしまった。

末期だな・・・

奴の長い沈黙を聞きながら考える。


『・・・・・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・』


――・・・・・・はぁ・・・

思わず溜め息を吐く・・・――と言っても、奴に聞かれればどうなるかは目に見えているので、内心で、だが。

――どうにも面倒だ。
俺はこういう事には慣れていない。野球の方がよっぽど分かりやすいと切に思う。

謝るべきだな。
すっと自然に思いついたその答えにふっと笑みが洩れる。
この俺が謝る・・・か。
人は変わるものだ。


「・・・・・・・・・悪かっ」
――た。
しかし、俺に最後まで言う間も与えず。

『・・・じゃあアンタも少しは自分の事話せば良いだろ!!!』

突然奴が叫び出した。

――・・・だから悪かったと言っているだろうが。

そう返そうにも奴は間髪入れずに言い続ける。

『いっつもいっつも、いぃぃぃぃぃぃぃぃっっつも、オレばっか喋ってさ!!
そんでやぁっとなんか喋ったと思ったら十二支の話はもう良いだろう!!?
何様だっての!アンタは王様か!!?んでもってオレは何だよ!!?都合の良い事だけ話すお喋りロボットか!!?
そうなのか!?そうなんだな!!?あーそうかいそうかい!!
そーんなにオレの話し相手がご不満ならこれから一生一人で恋愛ゲームでも育成ゲームでも何でもやっとけバカ!!!』

――はぁ はぁ はぁ・・・

一気にまくし立てた後荒い息が耳に届く。
きっと今頃肩で息をしている事だろう。


「・・・・・・気は済んだか?」

『―――ッなっっ!!』

またやってしまった。
電話を持ちながら頭を押える。

何をやっているんだ俺は・・・

後悔先に立たずとは正にこの事だ。

今この状況でこの一言が逆効果なのは目に見えて明らか。
しかし、此方としてはそういう意味で言ったのではない。
怒らせてしまったが、あれだけ言いたい事を言えば、
少しは気が済んだかと思い、そのまま口に乗せてしまっただけだ。

事実はそうなのだが・・・

やはり軽率過ぎたと思う。

向こうは余りの怒りに声も出ないようだ。
これは都合が良いと少し安心する。
先程のように濁流のように話されると弁解する暇も無い。

「・・・・・・すまなかった。」

『―――――・・・・・・・・・・・・・・・は?』

聞き取れないというよりは理解出来ないといった風な声色。
まぁ、そうなるのも仕方のない事だと妙に納得する。
この俺の口から素直に謝罪の言葉が出るなんて普通ではまず有り得ない。
しかし、元々意識して言わないようにしている訳ではないので、
言おうと思いさえすれば、実は割とすんなり言うことができるのだ。

「・・・聞こえなかったか?すまなかったと言ってるんだ。」
態と分かっているのに聞き直す。
そして、相手が何か言い返そうという気配がした瞬間に言う。

「――それとも、これだけじゃ不満か?」

此処まで言えば、相手は不満か不満じゃないかのどちらかしか言えなくなる。
不満じゃないと言えば、この不毛な言い合い(一方的だが)は終わり、
不満だと言えば何が不満なのかと聞けば良い。
お人好しな奴の言い分だ。聞いてやる事は容易いだろう。

・・・まぁどうせ奴の性格からして後者に間違いないが・・・


『――あー不満も不満だ!』
「ほう、何が不満だ。言ってみろ。俺がお前のご機嫌を戻すにはどうすれば良い?」
此処までは予想通り。さて、どんな我が儘を言われるか。

相手には、それこそ嫌味と取れるような言い方しかしていないのだが、
何処かではその我が儘を叶えてやる事を、楽しそうだと思う自分かいる。

なんとも不思議だ。
コイツと話していると何時も新しい自分に気付かされる。
何故だか恥ずかしい事のように感じてしまうそれは、俺をどうにも居心地が悪い気分にさせる。

決して不快、ではないのだが・・・

そう思ってまた笑みが洩れる。自嘲の笑みに似たそれ。

――変わる事を恐れているのかもしれんな、俺は。


そこまで考えると、今まで黙していた奴が小さく言う。
『・・・・・・・・・・・・アンタが・・・』

――俺が?

そう聞き返そうと思ったが止めた。急かすとまた逆上しだしそうだ。

『――ッアンタが自分の事全然話してくれない!!さっきも言ったけど、これが不満だ!!
知ってっか!?俺はアンタの誕生日すらも知らないんだ!!!
俺が電話したのも、御柳ってヤツが“恋人の誕生日すらも知らないなんて付き合ってる事にならない”とか
言ってくるから・・・』

「御柳が・・・――?」

何故御柳がこのことを知ってるんだ・・・?俺は断じて言ってないし、コイツが誰かに言うとは思えない。
俺達が・・・――そう、付き合ってる事を。
言ったのは俺から。半ば無理矢理だった気がするが、抵抗など捻じ伏せて手に入れた。
時期は・・・最近だとでも言っておこう。

まぁ何にせよ、後で御柳本人に聞けば良い事か・・・。


『――そうだよ!偶然な、その辺で会ったの!!んでちょっと話してて、そしたら、
“そろそろあの日だな〜”とかって言ってきて、は?って返したら、
“あれ、もしかして知らない?センパイの誕生日。残り一ヶ月切ったぜ”とか言われて、
そんなん聞いてない!って返したら、“愛がないんじゃね〜の?”とかって言われて笑われたんだ!!
だから心配になって電話したんだよ!!悪かったな!!
でもなんで俺が知らないのに御柳のヤツが知ってんだよ!!オカシイだろ!?
コイビトの俺が知らなくて、チームメイトの御柳は知ってるなんて。
――・・・ハッ、それとも逆か?
キープくんの俺には教える必要無くて、大事な大事な御柳くんにとは一緒にお誕生日祝うってか!!?
冗談じゃねぇ!!そんな・・・そんな半端なもん、俺は要らない!!』


―――・・・・・・言わせておけば・・・。
何だか散々に言われた気がするが取り敢えずは誤解を解く事を優先する。

「・・・少しは落ち付け。何故御柳が俺の誕生日など知っているかは知らんが、どうせ貴様をからかう為にでも調べたんだろう。
・・・どうもアイツはそういう事が好きらしいからな・・・。」
“そういうこと”が、人を揶揄う事なのか、コイツの事か、はたまたコイツを揶揄う事なのかは分からないが。
『――・・・へ?』
奴がどうにも間抜けな声を上げる。
「貴様も貴様だ。それこそ御柳の良いように振り回されて・・・少し考えれば分かる話しだろうが。
――・・・全くもって救いようの無い馬鹿だな。」
呆れた、とばかりに少し大きめに溜め息を吐く。

『――あ〜〜〜〜〜〜もうっ!!悪かったなバカで!!大体アンタも一々癪に障るような言い方するなよな!』
「態とそうしてる訳ではない。負い目や引け目があるからそう感じるだけだろう。」
『だーーーーもう!!あー言えばこう言う!!』
「――・・・フン、騒がしい猿だな。」

はぁ、と溜め息を吐く。
それを聞いて奴がまた何か反論するが、電話から耳を離して聞かないようにする。
誰だって煩いのは好きではない。
遠くで聞こえる(電話を離しているのだから当たり前だが)奴の声を聞き流していると、
ふと不満だという話が何処かに流れてしまっていた事を思い出した。
不満な事があるのにそのままにしていては後々面倒だ。
さっさと解消してやる事にする。

「・・・・・・さて、馬鹿猿の不満ぐらいは解消しておかねばな。
――さっきの言い分だとお前は俺に俺の事を話して欲しい訳だ。」
確かめるように聞き直す。
奴は先程までしていた反論も忘れて曖昧な相槌を打つ。
『・・・あ、あぁそうだ、けど・・・』
「なら何を話して欲しい?誕生日は御柳から聞いたのか?
なら次は何だ?血液型か?干支か?それとも家族構成でも言えば良いのか?」

『あ、あのなぁ・・・』
はぁ、と小さな溜め息。
『アンタ、もしかしてワザとやってる・・・?』
「何をだ?」
――何を、かなど勿論理解はしているが、弁解するのも面倒だ。
何度も言うが決して態とやってる訳ではない。
『・・・・・・もし天然だったら恐ろしいレベルだな・・・』
苦笑い、というよりは寧ろ呆れた様子。
何時もの目を細めているあの顔が目に浮かぶようだ。
「フン、何とでも言えば良い。・・・それで不満が晴れるならな。」
ともすれば流れて行ってしまいそうになる話をまた元に引き戻す。
コイツと話していると本題がころころ変わるので無性に疲れてしまう。
普通の会話とはこんな疲れるものなのか。
コイツ以外とはこんな会話にもならないので、分かり得ないが、
これが普通の付き合ってる者同士の会話なら、逆に、やっていけている奴を尊敬する。

『こんなんで晴れるか!
――・・・えっと、あー・・・そっか・・・不満の解消ねぇ・・・』
電話越しにうーんと唸り声が聞こえる。
本気で悩んでいると言うよりも、どうしてやろうか、といった風な、悪巧みしているような声音。

『・・・う〜〜〜ん・・・・・・う゛〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・』

そんな声が暫く続き・・・



『・・・――あ!』



突如、奴が声を上げる。
「・・・不満が無くなるような良い方法は見付かったのか?」
俺がそう聞けば、

『――おう!!・・・なんでも聞いてくれる約束だよな?』

と嬉々とした軽快な返事。

――否、そんな約束、していない筈。

自信は無いが何時の間にそんな話になった・・・?
しかも、こんな風に楽しそうに答えられると、取り敢えずはなんでも聞いてやるつもりだったのに、少し嫌な予感がしてきてしまう。
「・・・・・・・・・まぁ、な。何が望だ。言ってみろ。」
予感よりコイツを取って、ひしひしと感じる嫌な予感よりも目先の煩い猿を優先して。
半眼になりながらも口にする。





『――華武高行かせてv』





―――――・・・どこかで聞いたとおり嫌な予感は何故こんなにも的中するんだろうな・・・。

放心状態一歩手前の俺に奴は追い討ちをかける。
先程まで怒っていたのは何処のどいつだ。

『・・・んでもって練習とか混ぜてvv』

――駄目だ。

『アンタの事も分かるし、ライバル校の調査も出来るし、御柳にもおちょくってくれた礼はしなきゃだし・・・』

――駄目なものは駄目だ。貴様をあんな所に連れてなぞ行けるか。
あの練習試合以来華武の奴等は貴様に多かれ少なかれ好意を持っているんだ。

『これ決定!!俺様あったまいい☆★天才過ぎてバカボンもビックリモンだな。』

――話しを聞け!!絶対来るな。何があってもだ!

『じゃあ、明日そっち行くから!』

――なっ!




プッツー ツー ツー・・・




無情に響く機会音。


少しくらい話させろあの馬鹿が・・・
確かに明日は休日。
俺の方から奴を来ないようにさせるのは不可能に等しい。
奴が来ない確立も0に等しい。
俺が明日練習に行かなくても(そんな事はしないが)奴を守る者がいなくて事態が余計に悪化するだけ。
華武の奴等が練習に来ないことも、練習が無くなる事も無い。



――・・・まずい事になった・・・






そして時間は流れ・・・・・・・・・

俺は大して眠れもしないまま運命の日を向かえるのであった。









To be continued...










――――――――――あとなかがき。

まず最初に、
藍住さん、遅くなってすいません!!
もう遅すぎてすいません・・・
万年スランプですいません・・・(関係無いから)
しかも続き物ですいません!!
何から何まですいません!!(超土下座/どんなだ)
でもでも、誕生日プレゼントに捧げちゃいます!
藍住さん申し遅れましたが、お誕生日、おめでとう御座います!!
こんなヘボ小説、しかも未完成で遅い小説ですが、
愛だけは熱烈込めました!!
ですので、受けとってく下さると嬉しいです☆
で、では、またあとがきで・・・

あ、文中の太字にカーソル合わせると、訳が出ます。











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