Prego, benedicendo ad una
cara persona.
薄暗い室内。
ぴんと張り詰めた空気。
青年のイタリア語が途切れ途切れに響く。
「……ああ…そうだ。用が済んだら殺してかまわない。
…ああ…無事に帰って来いよ。」
そう言って電話を切ると、青年は入口近くの壁に凭れた少年に目をやった。
少年が口端を持ち上げる。
「今日も変わらずのボスっぷりだな。ボンゴレ10世。」
その日本語に、青年はふっと纏う雰囲気を和ませた。
「…そうかな?ぽいのは言語だけじゃない?」
「言語を引き合いに出すならまだまだだぞ。」
「うっそ!自分でも結構自信あったのにー…。」
机にベタりと両手を投げ出して、その間に顎を乗せた格好は、先程とはまるで別人のように酷く幼く見える。
「まぁ下手だとは言わんがな。…お前は良くやってる。」
少年の年下とは思えないその台詞に、しかし青年は少しも気にする風もなく身を起こす。
「ありがとう。……って、良くやってるって、何を?」
首を傾げる青年に少年は口だけで笑う。
「…ボスの仕事。裏と表の差が激しすぎて見てて笑えるぞ。」
「わ、笑えるって…」
自覚はあった青年は、その言葉に顔を引きつらせた。
「何も教えなくても自然にそうなったんだから、不思議なもんだな。血ってやつか?」
「さあ?…でも、表ができたあの日の、隼人と武の顔が笑えるくらい酷かったのは確かだね。」
その時の光景を思い出してくすくすと笑う青年に、少年はああと小さく相槌を打つ。
「ずっとひょろい今の裏の面だけ見てきてたんだからな。相当ショックだったんだろう。」
「……どーせひょろいですよ。」
少年の遠慮のない言葉に、青年は口を尖らせた。
「……」
青年が不意に、少年を見る。
「………リボーン、はさ…」
呼ばれた少年は、目で先を促す。
「リボーンだけは変わらなかったね。」
「……もうお前を見下ろせてるんだが?」
分っててそう言う少年の意地の悪さに、青年は苦笑する。
「そうじゃなくて。俺がこんなのになってもリボーンだけは少しも変わらないんだなぁって。」
「…なんだ、変わって欲しかったのか?」
そう言いながら少年は薄笑いを浮かべ、机に近寄り、頬杖をついた青年は近付く少年を見つめる。
「…違うって。なんかそういうのって凄く………」
先の続かない青年に、少年は黙って歩み寄る。
当然のように殺された少年の足音は、
青年の吐息よりも小さい。
青年はゆっくり口を開く。
「…安心、する。」
その言葉に、机越しの青年の前で少年は立ち止まった。
部屋の暗さで青年から少年の表情は、はっきりとは窺えない。
ふんと面白くなさそうに鼻を鳴らした少年は、青年の顎に右手を添える。
なんだろう。と青年が思った瞬間。
「――ッ!?」
顎を力強く持ち上げられて、椅子から体が浮き上がる。
屈んだ少年の顔が、まさに目の前にあって。
触れ合う5ミリ手前で、ドアップの顔は笑みを形作った。
「これでも、安心するか?」
ぱっといきなり解放された顎を押さえて、青年は頬を膨らませる。
顔が赤いのが、暗闇でばれてないといい。
「だから…そういうんじゃなくて……」
「俺が襲わないとでも思われてるんなら癪だからな。」
青年から離れた少年は、言葉を遮り近くのソファに座ってまた嫌味に笑う。
「そういう意味ではヒジョーに危惧してマスとも。」
半眼になって言われた青年のその言葉に、少年はまたふんと鼻を鳴らした。
「……なんで、隼人と武じゃ安心できないんだ?」
少年が浮かんでいた疑問を投げ掛けると、青年は曖昧に笑った。
「隼人も武も、俺の裏の面が本当の俺だと思ってるから。」
少年は黙って耳を傾ける。
「そりゃ何年もそうだったんだもん。いきなりできた人格なんて偽者だと思うよ。二人は俺を脆くて甘くて守るべきだと思ってくれてる。
他の部下たちは逆で、ボスは強くて非情で聡明で素晴らしいんだと思ってる。」
彷徨う青年の視線と、少年の視線がぶつかる。
「…でも、違うんだ。脆くて強くて、甘くて非情で、馬鹿で聡明で、守ってもらって守ってあげて…。例え相対してもそれは全部俺なんだ。
反面だけを見てるみんなには、俺も反面しか見せられないから…。
否応なく押し込められた反面が逃げ場を求めてもがくんだ。
そういうのって…ちょっとだけ、疲れる。」
困ったように笑うこの顔が、青年の癖なのを少年は知っている。
胸を締め付けるような悲痛な思いに、少年は口を開く。
「お前は――…お前だ。」
青年が微笑む。
「…ありがとう。そう言うだろうって分ってた。…だからリボーンは安心できるんだ。」
自分が引きずり込んだせいでできた、壊れそうなその笑顔に、
少年は神をも呪った。
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2005年10月ごろに行ったアンケートに答えて下さった方のみにフリーだった10年後リボツナです。
今は配布していません。無断転載はご遠慮ください。
発掘したのでアップ。
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