まどろみ










…ここ最近ずっとこうだ。




ティッシュをゴミ箱に放り投げながら、俺は溜め息をついた。





日本に来てからはや数か月。


こちらの日常にも、段々と慣れてきた。
毎日がとても楽しくて。



しかし、月日が経てば健全な男子ならやはり溜まってしまう訳で。


未成年にはそういうことを教えてはならない、などという考えのないイタリアで育った俺は、当然幾人との経験もあって。

溜まった時は適当にその興味本位で寝た女達のことを思い出しながら、事務的にさっさと処理していた。



…だが。




最近、最後の最後って時になると、いつもあの人が思考を覆ってしまう。


ただ顔が浮かぶなんてものじゃない。
フラッシュバックのように見たこともないようなその人の痴態が、我が物顔で俺の頭を行き来する。


そして俺は、まるでそれを今か今かと待っていたかのように呆気なくイってしまうのだ。


別のことを考えようとしても、切羽詰まった時にはいつも同じで。





『い、嫌だッ…離してッ!』
『ッあぁっ!獄、寺く…あっ…俺、もう…!』





一緒に果てた事だって数知れない。


                                   
さいな
そして毎回俺は、処理の済んだ後、言い様のない背徳感に苛まれるのだ。



こんなこと、してはいけない。あの人をこんなことで汚してはいけない。



しかしそんな思いをせせら笑うかのようにその映像は繰り返される。

さらには、日に日にリアルになってきて。

まるでそこにいるかのような感覚に、俺は眩暈すら感じてしまう。






…これに、気付いてはいけない。

きっとこれは押し込めた想いからの報復なのだ。


押し込めた想いの正体なんて知りはしない。

知ってはいけない。


今はただ、自分が気付かぬように祈るだけ。




…気付いてはいけない。









そして今日も。

必死で思い浮かべた艶かしい女の四肢は、いつのまにか上気したあの人の四肢になっていて。



…今日は、少し触れたかもしれない。

手を伸ばしてその虚像に。



だってまだ左手の先が燃えるように熱い。






俺は薄暗い室内に火照った身体を横たえた。


左手だけが燃えるように熱い。




…次にあの虚像に会った時、俺はどうしてしまうのだろうか。






答えは見えぬまま、

思考は次第にまどろみに飲み込まれてゆく。








…ああしかし、












これを愛と呼ばずして、なんと呼べばいいのだろうか。











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恋でいいんじゃない?




2004年10月31日(日)


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