ゆらり ゆりらら






いつも通り騒がしい掃除の時間。

箒に頭を預けてふぅと溜め息。


つい・・・と視線を向ける。
・・・いや、無意識に向けてしまった。
いつも脳のどこかで勝手に探してる。いけない事だとは思ってない。


目が、合う。


「・・・なんだよ。」


あまり感情の含まれない顔と声。俺に見られてたことなどどーでもいいと言わんばかりだ。

これがあれに向ける表情を知ってるだけに、このギャップは少しひっかかる。が、まぁそれはそれ。

あれのは敬愛と尊敬。
俺のは友情と競争心と、うっすら燻る微々たる愛情。

届くか届かないかの微妙な距離。付かず離れずゆらゆら揺れるやじろべえ。

・・・どうにももどかしいこの距離を、俺は早く埋めてしまいたい。

「なんだよって、何が?」

そう茶化すと、獄寺はむ、と眉間に皺を寄せた。
当たり前の事を聞くな。分かってるくせに。そう言いたげな顔だ。

「・・・見てただろーが。」
箒で乱暴にゴミを後に飛ばしながら獄寺は言った。

「あ、おい。あんま乱暴にすると・・・」
「シカトすんなよ!」
「ツナの机に埃かぶるぜ。」
「え、・・・わぁっ!!も、申し訳ありません10代目〜〜!!」

大慌てで寄せられた机の真ん中までズンズン進んでいって、獄寺はツナの机を必死で手で払った。

――ここにあいつ本人がいれば、きっと『いいよ〜!』って止めるんだろうな。

そういう情景を考えて、不意に身の内をのそりと這い上がる物を感じた。
きっとこれの名前は至極簡単なものなんだろうけど、今はなんだか悔しいので気付かない振りをする。

「ははっ」
必死で埃を払う獄寺に声を上げて笑う。こういう所に惹かれているのも事実だ。
「てめーも笑ってねぇで手伝えよ!布巾持って来い布巾!!」
ここで雑巾と言わない辺り、流石。

「なんでだよ。俺かんけーねーじゃん。」
「てめぇがあんな目で見るから悪いんだろ!!」

あんな目・・・

「それ言い掛かりだって。ただの偶然。ぐーぜん。」
獄寺が払う手を止めた。こっちを見る。
「偶然な訳あるかよ!チラチラ盗み見しやがって・・・。そーゆーの分かんだよ、俺。」
俺、そんなに見てたっけか・・・?

「いや、見てねーよ。」
いつの間にか目で追ってるなぁと思ったのは、今日はさっきで3度目のはずだ。

「見てるっての!・・・あーもー・・・。自覚ねーのかお前?」
ツナの机を綺麗にし終えた獄寺が、落としてあった箒を拾う。
それを見て俺も机を前に運び始める。

「・・・おー・・・ねーわ。見てたら流石に覚えてるもんだと思うんだけど。」
ゴーガーッとなんともけたたましい音を上げて机を引きずる。
持ち上げて運ぶなんて先生のする事だ。

「今日・・・。今日が特に多いんだよ。普段の倍は見られてる。」
他のやつらもガーガー机を運び始める。
音の合間に喋る獄寺の声はとても小さい。

「へぇ〜。なんでだろな?俺には見当もつかねーや。」
運んだ机の下にあったゴミをまた後に掃きながら、へらりと笑う。

「なんか・・・あんじゃねーの?」

不意に手を止めて、獄寺が真っ直ぐ俺を見てきた。

「なんか?」

背筋の辺りがぞわりと熱を持つ。・・・人は、これを興奮と呼ぶのかもしれない。

「なんか・・・変だろ山本。だから・・・ほら・・・」
言いかけて獄寺は掃き掃除に戻る。言いたい事が纏まらないのか、言いたくないことなのか。

聞きたい。

こいつが俺の事を考えてる。俺の事で悩んで、俺に向かって言葉を放つ。
それだけで、体の芯がごうごうと燃え上がる。掌が汗をかく。

「・・・体調、悪いんじゃねーかなーとか、思うじゃねーか・・・。」

ぽりぽりと頬を掻いて、何故かバツが悪そうに獄寺はやや大きめの音を立てて机を引きずる。

「・・・・・・・・・。」

言葉が出ない。この感激を、情熱を、どうすれば伝えられる?
ゾクゾクと震えがきた。
確かに風邪のせいもあるのかも知れない。だが、それだけじゃない。

「・・・心配・・・してくれてたのか・・・。・・・そっか・・・」
ぽろぽろと言葉が零れ落ちる。

「しっ、心配なんてしてねぇよ!!バカ!ふざけんな!!」
ゴガァン!と机を倒して獄寺が叫ぶ。
「そっか・・・そうなのかー・・・」

にこにことさり気なく倒れた机を戻す。
「聞けよ!!」


掃除終了のチャイムが鳴り響く。

・・・やじろべえの傾く日も近いかもしれない。




――――――――――

ツナを出さなきゃ気がすまんのか私は。



2005年3月25日  ミヤへ捧げる山獄v(ミヤとダンボの合同本にゲストとして載せていただきました/汗)
もうきっと山獄は書けない・・・・・・OTZ貴重なのでよく見といてくださいねヽ(´▽`;)(笑)


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