大丈夫。

草は枯れても地は残る。

枯れた草は地の栄養になって

そこには新たな草木がきっと根付くから。



草は笑って枯れられる。





†† タツナミソウ6 ††





ドォン!と物凄い音がして、ふわりと体が浮いたと思うとそのまま後ろに吹っ飛ばされる。
重力に従って落ちていく感覚に、背中をぶつけるかと思ったが不思議とその衝撃はこなかった。

「・・・ごほっごほっ!」

もうもうと立ち込める煙に数度咳き込んだ後、ツナはひび割れた壁を見てやっと自分達が攻撃されたことに気付く。

「――って、獄寺くん大丈夫っ!!?」

そこまできて初めてツナは獄寺が自分の下敷きになっていることに気が付いた。

「し、しっかり!」
急いでその場を退いて、どうしていいか分からずただ叫ぶ。
所々焦げた制服と、辛そうに歪んだ顔にツナは冷や汗を流した。

「・・・・・・は、い・・・割と平気・・・です。10代目は・・・」

獄寺は浅く目を開けて、笑った顔の出来損ないのような顔をして言った。

――あぁもう、どうして君は・・・

「・・・大丈夫。・・・獄寺くんが守ってくれたから・・・。」

当然のように身を挺して己を守った獄寺を叱り付けたくなったが、ツナは獄寺を安心させるように笑顔で言った。

それでもやはり辛そうになってしまったその表情に、獄寺はゆっくりと起きあがると、ツナの目を見て今度はしっかり笑った。

「なら、いいん・・・です。よかった・・・。」

ツナが思わず、獄寺くんがそんなになってどこがいいんだ、と言い返しかけたのを、

「――行きましょう。此方から降りるのは無理そうです。」

獄寺が遮って、その手を引くと立ち上がらせた。

「――ッッ!?」

自分の手を引いて前に立った獄寺の背中を見てツナは息を呑む。

「獄寺くん・・・・・・背中・・・・・・。」

平然と前に立って、次に進む道を考えている彼の背中側の制服全体がうっすらと黒く焦げ、所々穴が開いていて、
さらに血がじわじわと滲み出してきていた。

「ひどい・・・。」

あまりの有り様に呟いたツナに向き合って、獄寺は笑いかける。

「10代目を守った勲章です。それに、爆風に合わせて前に跳んだのでそんなにダメージは受けてないですよ。」

いつもと少しも変わらない顔で言う獄寺に、ツナはぎゅっと目を瞑ると謝罪の言葉を飲み込んだ。

「・・・ありがとう。」

ツナに怒られるものとばかり思っていた獄寺は一瞬面食らった顔をして、それから嬉しそうに微笑んだ。

「――・・・いえ。どういたしまして。」





ツナと幸せな会話をした後、前を向き直してから獄寺は内心で大きく舌打ちをした。

事態はどう考えても良くはない。

爆風をもろに受けた背中はずきんずきんと物凄い痛みを訴えている。
主人を庇って傷んだ背中をそのまま床に打ち付けたのが余計にそれを悪化させていた。

ダイナマイトは最低限しか使わなかったのにどう体を探っても一本しか残っていない。
黒の鞄はとうにどこかに捨ててきた。
この建物にまさかこんなに敵が詰まってると思わなかったのだ。
自分の未熟さに反吐が出る。

ダイナマイトがないとなると、どう考えてもあの人数を突破するのは無理だ。
よって脱出路は塞がれていることになる。

「――クソッ・・・」

後ろには絶対に聞こえないよう小さく呟くと獄寺は、この状況の打開策を考えながら人のいない方に走り出した。



ダダダダダ・・・

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

後ろから荒い息遣いが聞こえてきて、獄寺は少しスピードを落とす。
ちらりと後方を見ると、苦しそうに息をする主人と、さらに後ろに追手が何十人。撃ってくる気配はない。

――ハッ、追い込んでから殺した方が弾の節約ってか。

忌々しそうに男達を睨んだ獄寺は、埒があかねぇ、と呟くと目の前の扉の空いた角部屋に走り込んだ。


さり気なく部屋の端の窓際にツナを立たせて、獄寺はその前に盾になるように、男達に向かって立ちはだかった。


「はぁ・・・はぁ・・・・・・・・・」

ツナは息を整えながら、目の前の背中を見つめる。

じくじくと痛々しい皮膚に焦げた制服が貼り付いていて、剥がすと皮膚ごと剥がれるのかなと考えて気分が悪くなった。
首筋に目をやると、汗が何筋も伝っていて、それは腕にも及んでいる。
ツナはここにきて獄寺が相当無理をしていることに気付いた。

居たたまれなくなって思わず言う。

「ご、獄寺くんもういいよ・・・!」

「いえ、10代目は命に代えても俺がお守りします。」

最後の一本となったダイナマイトを握り締め、
獄寺は増えていく男達を睨んだまま言った。

今ツナを見てしまったら、張り詰めた緊張が解けて、
そのまま気を失ってしまうような気がしたからだ。




包囲が完成するとその中から顔を腫らした男が出てきた。
男は笑う。

「終わり、だな。」

ガチャリ

数十人の男達が一斉に銃を構える。
それに少しも臆さず、そのまま獄寺はツナに語りかけた。

「10代目・・・俺、10代目のこと本当に・・・・・・敬、愛・・・していました。」

「なに・・・言って――」

「10代目は強くて、寛大で・・・俺がいなくなっても大丈夫だとは思うんですけど・・・でも10代目、少し優しすぎるから・・・ちょっとだけ心配です。」

「いなく、なるとか・・・・・・なんで、そんなこと・・・っ!」

「短い間でしたけど、あなたに仕えられて本当に良かった。あなたを守って散れるならこの一生に悔いはありません。」

「やっ――」
――やめてよ!!

ツナがそう叫ぶのを左手で制して、獄寺は不敵に笑った。

「なぁ、知ってるか?こんなもん一本でもテメェら何人かは殺せんだぜ。」

言いながら慣れた手つきで煙草から火を着ける獄寺に、男達は戸惑う。
導火線を撃つべきか、獄寺を撃つべきか。

その迷いに獄寺は笑みを深めると、ふわりと、弧を描くようにダイナマイトを放った。

男達の視線が一瞬そちらに移る。


獄寺はその一瞬が欲しかった。


パァン!と一発撃った音がして火の着いた導火線が切れ飛ぶ。

そんなことに構いもせず獄寺は急いで振り向き、驚くツナを抱き締める。











「すいません。―――――最期だとお許しを・・・・・・愛して・・・ました。」










そう囁くと思いっきり跳躍する。窓の桟を踏み越え空に踊り出る。

内臓ごとふわりと浮く嫌な感覚が襲ってきて、








――――あぁ、でもやっぱり・・・10代目の出世姿は見たかったな・・・――








落下に付いて来られなかった水が、空へと吸い込まれていくのが見えた。











――――――――――
中書き。


痛い展開になってますが状況説明できているでしょうか・・・?

分からない方はぜひ聞いていただけると此方としてもすごく助かります。(あわわ)

挿絵は
チル・ナ・ノグ(Tir na n'Og)の小椋勇吏(おぐらゆうり)さんの物です。

元々あちらのサイトさん内でUPしていたものと、私の書きかけの小説の内容が似ていたので、許可を取って使わせていただきました。

本当に感謝感謝です!
・・・というかこんなヘボ小説に貼りつけてしまってもうすみません申し訳ありませんで頭が上がりません。(どきどき)

小椋さんの絵本当にいいですよね・・・!
初めて見た瞬間から萌えっぱなしです。あぁんもうvv(キモ)

サイト名:チル・ナ・ノグの文字から小椋さんのサイトさんに行けますので絶対行ってくださいね☆(義務!/笑)





太字にカーソル合わせると意味出ます。






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