散ってこその花だと誰かが言う。

枯れてこそ土の栄養になると草は思う。


・・・だけど、もし地が草をしっかり守れば、


草花は散らなくてもいいのかも知れない。







†† タツナミソウ7 ††







「――そろそろか。」

断続的に鳴り続いていた爆音がぴたりと止んで、
管理室でのんびりエスプレッソを飲んでいたリボーンはそう呟くと、エレベーターの作動ボタンを押して、そこを後にした。







* * * * *







窓の外に消えた二人に、頭の情報処理が追いつかない。
そんな男達の中央を、一人の男が突き抜けた。



「――待ちなさいッ!!!」



一喝と共に投げられたロープが落下する二人に巻き付く。

「なっ」
なんだってんだ!?
獄寺が叫びかけたのを、背中に食い込んだロープからの激痛が遮る。

「ぐ・・・ぅ・・・ッ」

二人分の体重を二・三重に巻かれたロープだけに預けて、焼けただれた皮膚が悲鳴を上げるのを獄寺は唇を噛み締めて呑み込んだ。

――ちくしょう・・・ッ!

ロープに巻かれた状態で、敵だらけの上に引き上げられたら今度こそ助からない。
なんとかロープから抜け出さなくてはともがくが、主人を抱き締めた腕の真上からきつく巻かれたロープはびくともしない。
それでもまだ健全時ならばなんとかなったかもしれないが、背中の激痛が獄寺にそれをさせなかった。

ゆるゆると死に近づいて行くのをただ受け入れるしかできない状態に、獄寺は逆光で顔の見えない男を睨んだ。







* * * * *







無駄な足掻きなのは分かってるけど、上に着いたら目の前の男を蹴り飛ばしてやる。

そう決め込んでいた獄寺は、だんだんと近づいて見えてきた男の顔に固まった。



頭がうまく働かない。

そんな馬鹿な。
あり得ない。

そればかりが頭をぐるぐる回る。


「なんで・・・あなたがこんな所に・・・?」


引き上げられて室内に足を付いた獄寺は、ようやくそれだけ搾り出した。



高齢で、それでもその威厳は少しも衰えてなくて、纏う雰囲気にツナすらも息を呑んだ。

獄寺が呟く。





「――9代目・・・。」





はぁ・・・。

呼ばれた老人は短く溜息をついた。

訳が分からず、何がどうなってるんだと問いかけた獄寺は、ふとぶつかった視線に思わずそれを呑み込んだ。
睨まれた訳ではない。黙れと言われた訳ではない。ただ目が合っただけだ。
・・・格が違うとはこういうのをいうんだろう。

ごくりと喉を鳴らした獄寺に、老人は縄を解きながら言った。

「――この高さから落ちて助かるとでも思ったのか?」

するすると解けたロープがパサリと落ちて、獄寺はロープが剥がれる痛みも忘れて老人の目をぐっと見つめてきっぱり言った。
「はい。」
一点の曇りもない瞳をただ見返して、老人は無表情で続ける。

「どうやって?」

「着地の寸前に10代目を真上に投げれば、勢いが相殺されて助かります。できる自信がありました。」
「・・・それで、お前はどうなった?」
「10代目が助かるのなら俺はそれで――」

ぱぁんっ

今まで一切行動を起こさなかったツナが動いた。

「10代目・・・」
叩かれた頬を押さえて獄寺はツナを呆然と見つめる。

「・・・死ぬかと・・・思った・・・。」

震える声に、獄寺は切なそうに顔を歪めてツナに手を伸ばす。
「すいません・・・怖い思いを・・・」
その手をバシッと払い除けてツナは獄寺に向かって叫んだ。

「獄寺くんが死んじゃうかと思ったッ!悔いがないとか最期とか・・・ッ」

勢いに乗せてぽろぽろと涙が零れる。
「10だ――」
獄寺は慌ててそれを拭おうとして、

「そんなこと言うな馬鹿・・・ッ!」

ぎゅっと目を瞑って悲痛に、搾り出すように言われた一言に、出した手を握り締めた。
「・・・・・・・・・すいません・・・。」

「・・・こんな、俺のために命を無駄にしたら駄目だよ・・・。」
獄寺の方を見ずに涙を拭いながら言われた一言に、反射的に獄寺が叫ぶ。
「無駄なんかじゃありません!」
「――ッ!」
突然の剣幕にビクッと身を強張らせ、涙目でこちらを窺い見るツナに、獄寺ははっとして、すいません・・・。と小さく頭を下げる。
そして頭を上げて真っ直ぐツナの方を見て静かに言った。
「・・・部下がボスを守るために命を懸けるのは当然の事です。」

その一言にツナがかっとなって言い返す。
「命を懸けるのは当然じゃないよ!獄寺くんが死んじゃうじゃんか!」

聞き分けのない子供のような叫びに、獄寺も思わず声を荒げる。
「俺は貴方に命を捧げてるんです!10代目のためになら死さえ名誉になります!」
「そんなのおかしい!変だよ!死ぬって言うのは死んじゃう事なんだよ!?」
「・・・そりゃそうですけど・・・。」
段々言ってることが良く分からなくなってきたツナに困った顔の獄寺が困った顔で返す。

それが、自分の言ってることがおかしいと気付かないツナにはなんだか馬鹿にされてるように聞こえて、悲しさ半分ムカつき半分で叫んだ。
「獄寺くんがいなくなったら俺泣くよ!?」

予想外の物凄い脅しに、獄寺が面食らった顔をする。
その後、困ったような切なげなような微妙な顔をして、ツナの涙を優しく拭う。
「今もボロボロに泣いてますよ。今でもとても辛いですし、もしそうなった時もきっととても辛いだろうと思います。
・・・でもそれも貴方が生きてることには代えられません。」

獄寺の手が目尻を拭き終えて離れるのを黙って待ったツナが、・・・でも、と続いた言葉にイライラと天井を仰いだ。
「ああもう!なんで分かってくれないの!」
「・・・どうして分かってくれないんですか・・・。」
ツナのセリフに獄寺は右手で顔を押さえて、溜息と共にそう言った。

珍しく我を通す獄寺を暫く見つめて、ツナが何か抵抗できないものかと考え、ボソッと呟く。
「・・・なら俺も獄寺くんを守る。」

あまりに脈絡のないその言い分に、獄寺は驚いて声を荒げる。
「なっ・・・ボスが部下のために命捨ててどうするんですか!」
「それは捨てるって言わないよ!ボスは部下のためなら命も惜しまないって本には書いてあったし!」

ツナがリボーンに毎朝読まされる本にも、獄寺が子供の頃読まされ続けた本にも、確かにそう書いてある。
獄寺はうっと詰まって、声を少し小さくして言い返す。
「そ、それは・・・それくらい部下を大切にするという意味で・・・。大体部下のためにボスが死んだら元も子もないですよ。」
「元も子もなくないよ!残った部下がボスになればいい!」

ツナのボスらしからぬその発言に、獄寺は珍しく眉をしかめる。
「無理ですよ。ボスの座を巡って争いが起きます。ファミリーは不安定になってヨソの奴等に易々と潰されてしまいます。」
雰囲気が険悪になった獄寺の言葉に、今度はツナが言葉に詰まった。
「うっ・・・・・・じゃあ獄寺くんがなってくれれば――」
「俺は自分がボスになる気も、ましてや10代目以外の人に仕える気も毛頭ありません。そんなことするくらいなら一人でやっていく方がマシです。」

きっぱりと言い切られて、頭に血が上ったツナは頭に浮かんだ言葉をそのまま叫ぶ。
「〜〜ッ、じゃあどうすればいいんだよ!俺は獄寺くんが死んじゃうのを止められないの!?」
必死の叫びに、不思議と嬉しさが込み上げてくるのを堪えて、獄寺は苦々しく頷いて言う。
「・・・そういうことになりますね。」
実は獄寺だってそんな簡単に死ぬつもりはない。
『よっぽどの事がなければ大丈夫ですよ。』
本当ならそう言って慰めたいところだが、さっき一回死にかけた手前、そう大それた事は言えなかった。

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ツナは獄寺のセリフを聞いてぐっと押し黙ったままだ。
獄寺も何も言わない。

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
暫くそのまま沈黙が流れる。
――少しはっきり言いすぎたかな・・・?
そう考えた獄寺は、こっそりツナの様子を窺い見てみるが、泣いてる訳でもなく怒ってる訳でもなさそうだ。
――??
どちらかと言えば思案しているような顔を、なんだろうとぼうっと眺めていると、

「・・・・・・分かった・・・。」
ツナが小さく呟いた。

「何をですか?」
納得した。というような言い方ではなく、思い付いた!とでも言うような声音に、獄寺は首を傾げる。

そんな獄寺を見ながらツナはぽんと手を打って言う。
「獄寺くんが変わらないなら俺が変わればいいんだ。」
「??」
なんの事か検討も付かない獄寺は黙ることで先のセリフを促す。
ツナは無意識に姿勢を正して言った。


「――俺、ボスになるよ。強いボスになる。獄寺くん・・・とか、部下の人達が、俺を守って死んでしまわないような、そんなボスになるよ。」


『ボスになる。』

――あんなに、なりたくないって言っていたのに・・・

「10代目・・・」

唐突に、今まで待ち望んでいた決意を聞かされて、感極まって声を振るわせる獄寺に、ツナはにこりと笑いかける。

「これで獄寺くんも死んじゃわないよね。」
「・・・っはい・・・。」

「絶対?」
「・・・はい・・・きっと。」

嬉しそうに微笑む獄寺に、

「・・・また、こんなことがあったらさ、今度は・・・


 二人で助かろう?」


ツナもにっこりと微笑んだ。

「・・・はい・・・。」











――――――――――
中書き。

ごめんなさい捏造なのは分かってますから何も言わないで!!!ううう
すいませんすいません
でも結構最初から出すと決めてました。よかった今までに本編に出なくて。
本編に9代目出てきたらもちろん書きかえます。そりゃもうすぐにでも。
ってかこいつら周りそっちのけで何ラブラブやってんだよって感じですよね。

・・・そんなツナ決意編でした〜。

太字にカーソル合わせると意味出ます。





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