ある日悪魔が囁いた。
それは張り詰めに張り詰めた糸を切るには十分な、
甘い 甘い 響きだった。
‡‡ deliro affetto ‡‡
「♪♪」
鼻歌を歌いながら料理を盛り付け、仕上げに先日買った隠し味を数滴ポタポタと垂らして獄寺は笑った。
「――できました☆」
「ホント!?やったぁ!お腹空いたよー・・・さっきからずっと良い匂い嗅ぎっぱなしで・・・。」
お腹を押さえて笑うツナに獄寺はニコニコ笑って出来上がった料理を運ぶ。
「お待たせいたしました。イタリアの郷土料理spaghetti
alle vongoleあさりのスパゲッティに、
cotoletta alla milanese子牛のリブロースのカツレツ、ミラノ風になります。
野菜の付け合わせはsecondo・piattoメインディッシュのそのトンカツっぽいのと一緒に食べて下さい。
最後にdolce・・・デザートのスイカ冷えてますんで・・・」
「すっごい!本格的っ!」
どこかのレストランのような食事をウエイターを気取って運んだ獄寺に、ツナが歓声をあげてパチパチと手を叩いた。
「今日は初日ということで気合い入れてみました。――って言ってもただの郷土料理ですが・・・。」
照れ笑いを浮かべて言う獄寺にツナが首を振る。
「そんなことないよ、本当においしそう!」
その間にも湯気を上げる色取り取りの料理は並べられてゆき、ツナは目を輝かせて両手をパンと合わせた。
自分の分も運び終えた獄寺が椅子に座るのを待って、二人で目を合わせて言う。
『いただきますっ!』
「・・・・・・どうですか?」
一口二口と口に運んで噛んで飲み込むのを、獄寺が不安げに見つめる。
ツナは親指を突き出してニッコリ笑った。
「おいしい!!母さんのより何倍もうまいよ!」
もぐもぐと頬張ってそう言うツナに、
「・・・光栄です。」
獄寺はそう言って微笑んだ。
「・・・でもホント良かった。獄寺くんがいてくれて。
母さん達勝手に旅行行っちゃうし、リボーンはイタリア帰っちゃうし・・・
盆休みは一日三食コンビニ弁当かと諦めてたよ・・・。」
もぐもぐと暫く頬張った後、ツナがそう切り出す。
「・・・俺も、一人の飯は味気無いんで10代目にお声を掛けていただけてよかったです。」
笑顔で言われたその言葉に、ツナはほっと息を吐いた。
「そう?・・・よかったー・・・迷惑になってないか心配だったんだ。・・・・・・これから1週間、どうぞよろしくお願いします。」
そう言って箸を持ったままペコリと頭を下げたツナに、
「・・・こちらこそ、一週間、よろしくお願いします。」
獄寺も楽しそうに頭を下げた。
* * * * *
「――・・・はーー食べたぁ!」
最後のスイカも食べ終えて、嬉しそうにお腹を擦るツナに、獄寺は微笑む。
「お腹いっぱいになりましたか?」
「うん!すっごく満足満腹!ありがとう!」
無邪気な笑顔でそう言うツナを真正面から見て、
不意に獄寺は、まざまざと先の自分の行動の醜さを見せつけられた。
――・・・俺は、こんな10代目に・・・
そう思った瞬間に、色々な感情が高波のように押し寄せて来て、
獄寺はまるでそれに追いやられるように、無意識に口を開いていた。
「じゅ・・・10代目・・・」
「ん?何?」
何も知らずに首を傾げる主人に、獄寺はこれから自分が言おうとしている事の重大さにゴクリと唾を飲む。
「・・・・・・俺・・・」
テレビすら点けていない部屋に、カッチカッチと時計の音が五月蝿く響く。
カッチ・・・カッチ・・・カッチ・・・
その音にまるで急かされるかのように、握った掌が汗をかく。
ぬめる掌の不快な感触にも気付かず、獄寺は、またゴクリと唾を呑み込んで、
ついに意を決したように口を開いた。
「・・・・・・・・・お、俺っ、あなたにッ」
ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!
「・・・あ、お風呂、沸いたみたいだね。」
音のした方向を見てそう言ったツナが、獄寺に向き直って訝しむ。
「・・・・・・獄寺くん?」
その声にハッと息を飲んで、獄寺は呆然とツナを見つめる。
ぬるりと滑る掌の感触と、耳の奥にいまだに響く機械音の余韻が思考を埋めていて、
獄寺の意識はゆるゆると現実に引き戻されていく。
「・・・・・・?・・・俺に?」
黙ったままの獄寺に、首を傾げたツナが先のセリフの続きを促すと、
ようやく事態を把握した獄寺が、何かを振り切るようにゆっくりコクンと頷く。
「・・・じゅ、10代目に・・・先に・・・風呂に入ってもらおうと思って。やっぱ一番風呂は気持ち良いですから。」
ニッコリと、またいつものように笑って言った。
「え、いいよ悪いよそんな…ご飯まで食べさしてもらってるのに・・・。」
そう言って首を横に振るツナに、
「いえいえ。」
獄寺が返す。
「主人より部下が先に風呂に入る訳にはいきません。こういうのは上からって決まってるんです。・・・それに、まだ片付けが残ってますし。」
だからどうぞ。と言う獄寺に、ツナはうーんと頬を掻いてから頷く。
「・・・じゃあ、先、入ってくるね。ありがとう。」
荷物を取ってから、ぱたぱたと洗面所へと行った主人を見送って、
獄寺は長く息を吐きながら、ドサッとソファに身を沈めた。
――・・・俺は今、何を言おうとした・・・?
『俺っ、あなたにッ――』
その先を言ってどうなる。
もう今更手遅れだ。
伝えたところで何も変わりはしないのに。
「・・・・・・いや。そうじゃねぇ。」
俺はあのキレイな人の前で、汚い自分でいる事が耐えられなかったんだ。
伝える事で少しでもキレイになれると勘違いしたんだ。
自分の愚かさに反吐が出る。
「・・・・・・それにしたって、何もあそこで・・・」
タイミングの悪すぎる機械音のせいにしてみても、それが原因な訳ではない事くらい、分かっている自分がいる。
切れた糸は戻らない。
崩壊してしまった理性は、もはや砂と化してどこかへ流れていってしまった。
「・・・もう、戻れない。」
獄寺はそう呟くと食事の片付けをするために立ち上がる。
ジャーー・・・
小さく響くシャワーの音が、
悪魔がせせら笑っているように聞こえた。
――――――――――
中書き。
人生初エロに挑戦しようとしています。
果たしてできるのだろうか…(汗)
これ休止に入る前に考え付いたので獄寺がキャラ違うわ料理できる設定だわでおいおいって感じですが、
まぁいいじゃん捏造って事で。みたいなのりで軽やかに狂った獄寺を書いてゆきたいと思います(痛っ)
太字にカーソル合わせると意味出ます。
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