これらがもしボスの血ゆえの事だとしたら、


俺はどうしてその運命を恨まぬことができようか。










‡‡ sciagurato genio ‡‡










昔から特に頑張らなくても何でもできた。

小学校のテスト程度なら100点以外取ったことはなかったし、スポーツだってなんでもそつなくこなした。


・・・多少は、やはり驕ってたんだと思う。












小5の時、酷いいじめにあった。











教科書を破る。椅子を濡らす。上靴を隠す。体操着を捨てる。財布を盗む...

酷く陰湿で稚拙なそれに、しかし教師達は見て見ぬ振りで。


そうしてそれはエスカレートしてゆく。

段々とそれは学年中に浸透して。



俺も初めは馬鹿馬鹿しいと怒りも嘆きもせず、ただ憮然と構えていた。
反応を返せば返した分だけ相手が喜ぶのが分かっていたから。

しかし、彼らはその態度が余計に気に入らなかったらしい。






集団で、殴られるようになった。






暴れないように手足は縄跳びで結ばれて。


トイレで大人には見えない所ばかりただ殴られた。


ただのヒーローだった幼稚な俺は、止む事のない痛みに泣き叫ぶしかできなくて。


そんな俺に、彼らはとても嬉しそうに笑った。

嬉しそうに、楽しそうに、笑い転げていた。











毎日が、ただ、ただ、地獄だった。




しかしそれでも俺は毎日学校に行き続けた。

理由は有り内



親に自分の惨めな姿を見せたくなかったからだ。

今まで優等生だった事を、ただ無心に『偉いねぇ!』と喜んでいた親には、とてもじゃないが言えなかった。



耐えて、

耐えて、

耐えて耐えて耐えて...





・・・しかし、どんなに頑張ったとしても、歯を食いしばっても、小学生がいつまでも親にそんな重大な秘密を保てる訳がなく。



全てを知った母は、


















『・・・・・・・・・・・・・・・つーくん・・・引っ越し・・・・・・しましょうね。』

















濡れた頬で微笑んで、ぎゅっ、と俺を抱き締めた。










雨降り注ぐ小6の冬。












*****













中学からこちらに来たが、もうこれ以上いじめられるのも、ましてや親に迷惑をかけるのもまっぴらだった。


ダメツナは良い隠れ蓑。


一人でいることが多かったが、殴られるより100倍ましで。


ダメツナだと笑う人達を影で嘲笑った。

そうやって見下していれば良い。
本当に馬鹿にされてるのは自分なんだと気付けずに幸せに生きていれば良い。



そうして俺はこのまま駄目な仮面を被ったまま平和に生きて、平凡な死に方をするんだろう。






・・・そう・・・思っていたのに。

















『おまえをマフィアのボスに教育するために日本へきた』

















世界は一転する。















* * * * *
















・・・俺はリボーンが苦手だった。


赤ん坊のくせに何もかも見透かしたような目が、
俺が必死に隠している物まで捕らえているようで。



俺はリボーンが苦手だった。



死ぬ気弾を使われると――精神は例外として――身体的に俺が人生をかけて隠している物が、
酷くあっさりと露呈するから。


今はまだ彼らも俺を見直す程度で済むかもしれない。


でも皆がそれで当たり前だと慣れてきたら?


できるやつだと・・・、できるのにやらないやつだと気付いたら?



怖い。


怖い。怖い。怖い。



馬鹿にしくさった態度だと責められたら、

俺はそれを否定できない。


嘲笑ったのは事実だから。



怖い。


人の目に止まらないような、
思わず見落としてしまうような、
そんなやつでいなければならないんだ。

俺は。




・・・ヒーローは恐ろしい。

憧れだけでは済まないのが人間の常だから。


敬愛の目差し。

羨望の目差し。

嫉妬の目差し。


憎悪の目差し。






俺の周りにもヒーローがいる。

世渡り上手で社交的。
スポーツ万能で野球部の期待の星。
おまけに美形で頭の回転が早いとくれば、
なるほどヒーローというのも頷ける。


彼には・・・山本には、俺に足りなかった何かがあるらしい。



片や、小さな頃からずっと人に囲まれてきたヒーロー。


片や、人生のどん底で絶望に泣いた憐れな子供。





俺は山本が苦手だった。




・・・てなかったら・・・

いじめられてなかったら、


俺はあんな人生を歩めていたんだろうか。



スポーツに打ち込み、
勉強に打ち込み、

充実した人生を。



・・・・・・考えてもしょうがない。
今ではこの生活が俺の人生だから。

もうこれにも慣れたから。




・・・でも、

それでもやはり山本といると、不意に昔が思い出される。



成功と失敗の差を見せつけられるようで、

例え目を逸らしても、心臓に塩を擦り込まれるようで。




俺は山本が苦手だった。










そしてもう一人・・・・・・






「10代目〜!!」







俺は獄寺くんが苦手だった。







「一緒に帰りましょう!」


幸せで蕩けそうな笑顔で、いつも俺の前に立つ彼。


「うん。帰ろう。」


反応を返せば即座に、はいっと返事が来る。




・・・獄寺くんが俺のことを慕ってくれているのは分かってる。

“ダメツナ”ならいざ知らず、‘俺’は気付いてしまった。



獄寺くんがふっと見せる恋慕の表情に。

心の奥深くに押し込められた想いに。



こんな俺なんかを好いてくれる人がいる。

それは抉り取られた穴を、完全ではないにしろ埋められる物で。





・・・でもちゃんと分かってる。




彼が想いを寄せるのは俺ではなくて“彼”だから。


“彼は”俺の仮面。


光など通せない鉄の仮面。



外敵から身を守ってくれる素晴らしい鉄仮面。











暗闇のどん底に俺を連れて行く鉄仮面。










絶望に打ち震えども、
苦痛に顔を歪めようとも、
嘆き悲しみの絶叫を発しても、

それを外に届けはしない、


実に有能な鉄仮面。







獄寺くんはその鉄仮面に恋をしている。


反射する光を眩しいと感じ、
偽りの歌に歓喜する。





そして、その仮面をもし外せば、

きっと彼の恋は消えうせてしまう。




欺かれていたことを怒り、悲しむ彼に、

俺は掛ける言葉もないだろう。








・・・俺は獄寺くんが苦手だった。







どうせこの手から消えて行ってしまうなら、初めから触れなければ良い。


それはかつて散々叩き込まれた教訓。


絶対のトラウマ。


























鉄仮面に微笑む彼らに、










俺は鉄仮面の中で目を閉じるしかできない。



































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