「アイツだけは・・・野球で殺す」


 彼らの全てのキッカケは、犬飼冥の、一言だった。

 そして華武高に行って、それは、本格始動した。





‡‡  前途多難  ‡‡






 「・・・なんだ、あいつら・・・」
彼らは、いろんな意味でスゴイ奴らだった。
十二支野球部も充分・・・いや、十二分に変だとは思ってたけれど。
同等か・・・それ以上に、濃ゆい。
 キャプテンっぽい男を始め、殆どが、一度見たら忘れられない個性の持ち主だった。
何故か大きいユニフォームを着て、ズルズルと風邪を引いてる者や、
妙なペイントを顔に施した、パソコンを持ち歩いてる者・・・。監督に至っては、全く以って理解不能。
十二支野球部の面々が、まだ普通に見えてしまうから怖い。
 そんな中で、独りクチャクチャと口を動かしてる者がいた。どうやらガムを噛んでいるらしく、
時々、風船が膨れている。特徴的なVの字をした前髪に、珍しい形のメイク。
その彼が、不意に十二支高に眼を向けた。
 ―――始まりの合図は、あまりにも酷かった。
 「っは!どいつもこいつも弱っちそうな野郎ばっかだなァ、オイ?」
ぷぅ・・・とガムを膨らませて、少し瞳を細めて、馬鹿に仕切ったように言う。
実際、馬鹿にしていたのかもしれないが。
 「御柳、テメー!」
そう、犬飼が言うよりも早く、誰よりも早く、その言葉に猿野が反応し、叫んだ。
「なんだ、テメー!そこのガムっっ!!」
 「・・・あ?」
そして、その瞬間、愉快そうに細められていた瞳に、怪訝な・・・キツイ色が宿る。
 「ふふふ、芭唐ってば『ガム』だって〜〜〜!面白気〜〜〜!!」
隣にいた、パソコンを持った少年が小さく笑った。
 「てめェさ、ふざけてやがるのか?」
ゆっくりとガムを噛みながら、芭唐と呼ばれた少年は、口元だけを笑みの形に吊り上げる。
冷たく・・・笑まない笑顔。
 「ふざけてなんかねぇよ!てめぇこそ何様のつもりだ!!」
対照的に、怒りで頬を朱に染めている猿野。
「さ、猿野くん・・・!」
微かに辰羅川が制止をかけたが、彼の耳には届いてない。
猿野はさらに、言葉を続ける。掴みかかるほどの勢いで、御柳に言い募る。
「だいたいオマエ、ガムなんかクチャクチャ噛みやがって!野球やる気あんのかよっ!!」
耳まで赤くして。瞳を燃やして。
 ・・・が、それは。水の如く、風の如く、冷ややかに流された。
 「“野球やる気”だぁ?っ・・・は!そんなもん、必要ねーだろ」
嘲笑うかのように、彼は口の端を上げる。
「てめぇらなんかにゃ、俺たち(一軍)は勿体ねぇんだよ」
「なっ・・・!ふざけんじゃねぇッッ!!」

 華武高の広いグラウンドに、大きな怒声が、木霊していた。






 それから、数日経った・・・試合後、初の日曜日。御柳は独り、歩いていた。
あの日も噛んでいたように、ガムを1つ口に入れ、目的も無くブラリブラリと。
 「んんー・・・本屋にでも行くかねぇ?」
気持ち良さそうに1つ伸びをして、近くの本屋へと、足を向けた。

 まずは、雑誌のコーナーで立ち読み。
週刊漫画や、野球マガジンやら、およそ興味の湧くものは漁り尽くす。
 それから、当然のように漫画の棚へと移動する。
新刊チェックなんかをしていたのだが・・・御柳は、ふと顔を上げた。
 「・・・あ?」
小さく呟く、彼の瞳に入ったものは。難しそうな大河小説の向こう、洋書を立ち読みしている青年。
薄い茶系の髪に、鈍く光る銀のフレームの眼鏡。
黒い細身のジーンズに、長いロングコートを羽織っている。
 少し細め伏せられた瞳に映る活字は、日本の言語ではなかった。
が、英語というわけでもなく・・・ロシアとかドイツとか、普段はお目にかからないような言語。
 しかし、その青年の見た目から、判断できる御柳の知り合いは・・・。

 「さるの・・・?」

 いつもの嘲笑うような軽口も忘れて、素で驚き、そして呟く。
静かな本屋で、その声は彼に届いたらしく。
 「・・・・・・」
猿野、と呼ばれた彼は、ゆっくりと顔を上げて、片手に持っていた洋書から御柳に視線を移す。
いつもいつも纏っている、騒々しい喧騒のような雰囲気は無く、ただ物静かな高校生だ。
 「・・・ああ、御柳か」
そうして一言漏らすと、また洋書の活字を眼で追い始めた。
・・・ただ、それだけだった。

 あのとき見た、彼ではなかった。あのとき会話を交わした、彼ではなかった。

 ―――御柳は、立ち尽くすしかできなかった・・・。
















  前途多難 冒頭文   終。
-----------------------------

水風さんのあとがき☆

 初めての芭猿文です。わーーー!!(何)
これは、茜梨さんと一緒に同じ文を書こう!!というコンセプトの下、やらせて頂きました!
茜梨さん、楽しかったです!!(笑)また構ってやって下さい!!(迷惑、迷惑!!/汗)
 と、いうことで・・・。続きの芭唐さんサイドは私が書き、天国サイドは茜梨さんに書いて頂いています。
続きは下からどうぞーーー!!是非、天国サイドを!!(笑)


茜梨の勝手な感想!

お疲れ様でした水風さん!!
誘ったのは私のくせにホント遅筆ですいません・・・
もー水風さんの芭唐さんかっこいいなぁ・・・vvv
なんだか難産した芭猿ですが、二人の愛は込めまくってますvv
天国サイドも見てやろうと言う心の広いお方は下からどうぞ・・・v
では、水風さん、有り難う御座いました〜!!
あ、太字に触ると意味が出ますよ〜








BACK   水風さん作、芭唐サイドへ   茜梨作、天国サイドへ